京阪電車の神宮丸太町駅を降りて、鴨川を渡ってすぐの路地裏に誠光社はある。店主の堀部篤史さん(42)が2015年、個性派書店として全国にファンがいる京都市の恵文社一乗寺店から独立して開店させた。小さな店が掲げるのは、本屋の新しい姿を提案する「ささやかな実験」だ。
堀部さんは大学在学中の1996年、アルバイトで恵文社一乗寺店に入った。いきなり本棚を一つ任され「無手勝流で、自分のほしいポップカルチャーの本だけを仕入れて並べていました」。インターネットの黎明(れいめい)期、個性的な棚が評判を呼んで有名店に。02年には店長になったが、増床し、スタッフを増やすなかで息苦しさも感じた。
「売り上げのために利幅のいい雑貨を増やせば、次第に雑貨によって店が支えられるようになっていく。そうならず、カルチャーが好きな一握りのお客さんを相手に、持続して商売をするにはどうしたらいいのか」。誠光社は、その問いへの挑戦でもある。
店は19坪のワンフロア。2階が住居で、基本的には夫婦で切り回す。大手の取次会社とは契約せず、出版社との直取引で利幅を増やした。年1~2冊は自社で出版し、利益率の高い商品として長く売る。「本屋の設計であると同時に、生活の設計でもあるんです」
暖色の明かりに照らされた本の並びは順不同。思いがけない出会いが待っている。「受動と能動のあいだ」(堀部さん)をぜひ、体験してみて。(山崎聡)=朝日新聞2019年7月24日掲載
◇売れ筋
●『アウト・オブ・民藝(みんげい)』軸原ヨウスケ・中村裕太著(誠光社) 店内で昨年開いた5回のトークイベントから生まれた本。民藝運動の「周縁」に光を当てる対談録。
●『実在の娘達』福永信著(個人出版) 三つの掌編小説を活版、写植、DTPで印刷しわけて一冊に製本。少部数出版ならではの贅沢(ぜいたく)な試み。