大学1年のとき、友人たちと読書会なるものをしようということになって、読み始めたのがこの本だ。
妙な説得力のあるK君のイチオシだったが、当初は著者レヴィ=ストロースについて何も知らず、この本で何が問題になっているのかも皆目わからなかった。スタートしてみると、多くの例がオセージ族といった「プリミティブな社会」から採られ、そこで働く思考のあり方について述べられている。が、だから何なんだ? それを考えるためにこそ読み進めていった。
おんぼろのゼミ室を借りた、5、6人での読書会。少し読んではその理解について議論し、議論してはまた読む。著者の他の本や関連本に脱線しては、また戻ってくる。訳者の大橋先生にもお話をうかがった。1冊の本をこれだけじっくり読んだのは生まれて初めてだった。夢中だった。
ただ、そんな風だからなかなか前には進まず、読書会では最後まで読み終えることすらできなかった。でもそれを通して、「だから何?」への答え以上に、著者の思考のかまえが身体に沁(し)み込んできた。内なる「野生の思考」が活性化されたと言ってもいい。それは決して「未開野蛮の思考」ではなく、あらゆる社会に共通して働く思考のあり方で、著者はそれを巧みに実践してもいたからだ。
ともあれ、こうした仕方で本を読むこと、つまり、何かについての情報を手早く抜き出すのではなく、その世界に身をさらし、自身も変わりながら読んでいくこと。それこそ私が書物を考える際の原型となった。=朝日新聞2019年9月18日掲載
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