「人体、なんでそうなった?」書評 飽きない進化の失敗ストーリー
ISBN: 9784759820102
発売⽇: 2019/08/10
サイズ: 19cm/286p
人体、なんでそうなった? 余分な骨、使えない遺伝子、あえて危険を冒す脳 [著]ネイサン・レンツ
ビタミンのサプリを飲んでいる方は多いのではないだろうか? 実は私も欠かせない。では、どうしてヒト以外の野生動物たちは、こんなものなしで生きているのだろう? 答えは簡単。他の動物はみな、なんとか自己調達しているのだ。
ほとんどの哺乳類は、ビタミンCを自分で合成できる。ところがヒトは作れない。しかも、合成する遺伝子まで持っているのにダメなのだ。悲しいかな、その遺伝子は壊れている。
ビタミンB12について言えば、多くの哺乳類はこれを自分では作れない。が、腸内細菌に作ってもらっているので大丈夫。ヒトは? 確かにヒトも腸内細菌に作ってもらっている。が、その細菌たちが住んでいるのは大腸であり、大腸は栄養を吸収できない。いくら作ってもらっても、すべてトイレに流される運命なのだ。もったいない!
ヒトは、直立二足歩行をするようになったので、腰に負担がかかり、椎間板ヘルニアになりやすい。これは、比較的よく知られている。しかし、このほかにも、膝の靱帯の強度不足、手首、足首の骨の過剰という設計ミスもある。
受精卵は次世代を担う大事な細胞なのだから、きちんと子宮に直行すべきだろうに、そうするすべを持っていない。だから子宮外妊娠が起きる。免疫は大事だが、自分自身の細胞を攻撃し始めるのは本末転倒。自己免疫疾患とは、まったく意味不明の反乱行為だ。
読めば読むほど、本当にもっとマシな設計ができなかったのかねと、欲求不満がつのる。しかし、人体も進化の産物なのだから仕方がない。進化は、合理的な目的を持って進むものではなく、その時、その場でうまくいったものが広がるという刹那的プロセスなのだ。
本書は、進化がどのようにして人体を作り上げたのかを、サクセスストーリーではなく、失敗ストーリーで綴る。読んで飽きず、納得させられ、さて、ではどうしようと考える。
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Nathan H. LentsN ニューヨーク市立大教授(生物学)。ニュース番組など多数のメディアに出演。