普通の六法では、人権保障を謳(うた)う最高法規たる憲法を筆頭に、社会の基本法たる民法が後に配置される。他方、本書は刑法から始まる。ここに、本書の問題意識が強く示されている。
いじめは、しばしば犯罪を伴う。殴る・蹴るは「暴行」「傷害」(刑法208、204条)、公然と悪口を言えば「侮辱」(刑法231条)、脅してお金をとれば「恐喝」(刑法249条)だ。
学校は、深刻ないじめが起きても、学内だけで対応しようとする傾向が強い。これに対し、いじめ研究の専門家、内藤朝雄氏は、学校内であっても、犯罪には警察や司法機関が適切に対応すべきだと指摘してきた。「いじめ」という言葉のせいか、加害者には犯罪の自覚がないことも多い。必ずしも刑罰を科す必要はないが、軽い気持ちでやっているその行為が、警察が動くほどの大問題であることを認識させ、子どもたちの「スイッチ」を替える必要がある。
著者の山崎氏は自らのいじめ体験を踏まえ、法律を知っていれば、「自分で自分の身を守れたかも」との思いで、本書を企画したという。小中学生が一人でも読めるようにした、イラスト・コラムの工夫も素晴らしい。本書を手にしていじめに立ち向かう勇気を持った子も多いだろう。子どもを支える大人にも、適切な知恵と力を与えただろう。
ただ、法学の入門書としては、少々、注文もある。著者は、条文の言葉を説明する上で、「正確さよりもわかりやすさを優先した」箇所があるとする。例えば、憲法12条の権利濫用(らんよう)禁止について、権利行使で「迷惑をかけてはいけない」と置き換えることには、専門家として違和感がある。「誰かが迷惑に感じる」というだけで、個人の自由や権利を制限していいはずがない。分かりやすさを優先した箇所について、巻末でもいいから、法的に精密な解説がほしかった。
とはいえ、「法は困っている人を助ける力になる」ということを、子どもたちに届けた本書の意義は絶大だ。
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弘文堂・1320円=4刷15万部。8月刊行。「法律を誰でも読める文章に」と製作。初刷1万部は発売後2日で売り切れたという。=朝日新聞2019年10月5日掲載
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