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18歳のティーンラッパー・MANONに影響を与えた3冊 自分の境界線を越えた瞬間を共有

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

マルジャン・サトラピ「Persepolis」

 「最初に紹介するのは『ペルセポリス』というフランスのマンガです。読んだのは小学生の時。私は父がフランス人で、母が日本人なのですが、当時は今よりもフランス語を使う機会が多かったのでフランス語版で読みました。この作品はアニメ映画にもなったので、そちらでご存知の方も多いかもしれない。舞台はイラン。イスラーム革命、イラン・イラク戦争が起きた時に青春時代を過ごした作者の自伝的な作品です。当時の中東情勢が物語にものすごく深く関係しているので、小さい頃は全然話がわかりませんでした(笑)。でも画がすごいかわいいし、印象的なシーンも多かったので、当時からすごく好きだったんです。

 イスラーム革命以前のイランは、宗教の戒律を重んじていたのでものすごく制約の多い社会でした。普通の恋愛はもちろん、音楽も聴けるものが限られてて。初めてこのマンガを読んだ時の私は宗教や政治のことを全然知らなかったから『なんでこの子はこんな窮屈な思いをしてるんだろう? かわいそう!』って思ったのをよく覚えています。でもそういう理不尽な世の中でも主人公の女の子が強く生きようとするところも大好きです。

 私が特に好きなのは主人公がフランスの大学に進学して新しい世界を知るところ。友達にパンクバンドのライブに連れて行ってもらうシーンがあるんです。彼女はその体験をきっかけに音楽の魅力にとり憑かれるんですけど、これは私が初めてヒップホップに行った時の経験と重なるものがあって。もちろん状況は全然違いますけど」

 MANONが初めて体験したヒップホップはNENE(ゆるふわギャング)のライブだったという。それまではいわゆる「コンサート」しか知らなかったMANONにとってヒップホップの世界は完全に未知の世界だった。ちなみに彼女の地元である福岡は“ストリートな”ヒップホップが盛んな土地でもある。

 「何から何まで衝撃でしたね。『曲が終わったのになんでみんなが拍手しないの!?』って(笑)。お客さんはみんな手を上げて何かやってるんです。私は棒立ちで、どう振る舞っていいかわかりませんでした。だけどなんだかカッコよかった。そして何よりNENEさんのライブに圧倒されました。実は最初はヒップホップに対してちょっと偏見を持っていたんです。だけど次の日からNENEさんの曲を聴きまくるようになってました。あの日のライブは自分の中の境界線を越えた瞬間だと言えます。『ペルセポリス』の主人公は初めて観たパンクバンドのライブで自分自身を解放させる衝撃を受けるんですが、それはまさに私がNENEさんのライブを見た時に感じたものでもあるんです」

タヴィ・ゲヴィンソン「ROOKIE YEARBOOK ONE」

 2冊目に紹介してくれたのは、ティーンエイジャーのファッションブロガーとして2010年代に注目されたタヴィ・ゲヴィンソンの著書『ROOKIE YEARBOOK ONE』。日本でも「タヴィちゃん」として人気を集めた。本書は彼女が10代の女の子向けに公開していたオンラインマガジン「Rookie」から派生したもの。

 「タヴィちゃんが10代の時に出したビジュアルブックです。今日持ってきたのは日本語版ですが、私は中学生の時に英語版を買いました。この本は見ていただくとわかるんですけど、とにかくビジュアルが勝利でしかない。ファッションもそうだし、私が好きな視覚的な要素がすべて詰め込まれてる。バイブルと言っても過言じゃないです。

 この本の翻訳をされている多屋澄礼さんにとてもお世話になっていることもあって、日本語訳をプレゼントしていただいたんです。それで改めてしっかり読んでみたら、人種やジェンダーについての文章がたくさんありました。本の中に『女の子もおならをする』というコラムがあるんです。初めて読んだ時は『えっ?』って思いました。女の子としてそういうのは見たくない気持ちも正直ありました。でも改めて読み返してみると、同じ女性である自分にとってすごく大切なことが書かれていました。

 タヴィちゃんはこの本を15歳の時に作ってるんです。ティーンである自分が同じティーンの女の子に向けて伝えたいメッセージとして。だから日本語版を読んだ時はものすごく衝撃を受けました。彼女はローティーンの頃からファッションの現場にいて、本当に多様な価値観を身近に感じていたから、15歳ですでにこんな成熟した考えを持っていたんだと思う。

 私自身は勉強が本当に大嫌いなので、宗教や政治、人種、ジェンダーについての知識は乏しいんですけど、だからって全然関係ない話じゃないことはわかってる。だから少しでも自分が入りやすい作品を読んで、そこをきっかけに知る努力をしているところです」

リリー・フランキー「おでんくん」

 「最後に紹介するのはリリー・フランキーさんの『おでんくん』です。母がリリーさんの大ファンなんです。それで2〜3歳の頃から読んでます。もうボロボロです(笑)。でもこの本にはリリーさんのサインが入ってるんですよ。『東京タワー(〜オカンとボクと、時々、オトン〜)』が出た時、母と一緒に北九州で開催されたサイン会に行ったんです。私は『おでんくん』が大好きだったから、この絵本を持参したんですね。しかも当時は私も子供だったので、図々しくも『東京タワー』じゃなくて『おでんくん』にサイン欲しいとか駄々を捏ねちゃったんですよ。でもリリーさんは快くサインしてくれて。私が『ガングロたまごちゃんが好き』と言ったら一緒に描いてくれました(笑)。

 この本はストーリーもすごくかわいい。ガンになったお母さんをおでんくんが治してあげる話があって、私はその健気な姿が大好き。『あなたの夢はなんですか』というテーマは最高です」

 18歳のMANONが叶えたい夢はどのようなものなのだろうか?

 「私はきゃりーぱみゅぱみゅさんの大ファンなんです。きゃりーさんが高校生の時からずっとブログを読んでました。当時から本当にハンパなくて。今でこそ『きゃりーぱみゅぱみゅ』という名前は完全に世の中に定着してるけど、冷静に考えるとものすごい言語感覚だと思いませんか? こんなインパクトのある名前、普通思いつかない。

 私は、日本における『Kawaii』の概念はきゃりーさんが作ったと思っています。例えば、今ではみんな『グロかわいい』って当たり前に使ってるけど、かわいいとグロテスクを同じテーブルに乗せたのはきゃりーさんだと思う。本当にぶっ飛んでてカッコいい。私とやってることは全然違うけど、これからは私だけの世界観できゃりーさんのような存在になっていけたらと思います」