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人気漫画『魔入りました! 入間くん』が小説に 原作者の西修さん、小説家の針とらさんインタビュー

(左から)『魔入りました! 入間くん』原作者の西修さん、ノベライズを担当した針とらさん

一番やさしくて、一番熱い漫画を目指して

――お二人が顔を合わせるのは、今日が初めてだそうですね。

西修(以下、西)そうなんですよー! 男性だったんですね。

針とら(以下、針)ノベライズ版の制作過程でも、編集担当さんを介してのやりとりだったので、今日は本当に緊張してます(笑)。

――針とらさんは今回、『入間くん』のノベライズをご担当されましたが、その前から作品をご存じだったのですか?

針:元々は、ポプラ社の担当編集さんとオリジナルの作品の打ち合わせをしている中で、参考になる学園モノとして『魔入りました! 入間くん』を教えてもらったんですが、読んでみるとすごく面白くて。それからしばらくして「ノベライズ版を書いてみませんか?」とお話をいただいて、びっくりしました。編集さんが最初に教えてくれたときは、ノベライズが決まっていたわけではなく、読んで面白かったという僕の感想を覚えてくれていたそうです。

 『入間くん』という作品自体はすごく児童書向きだと思いましたね。例えば、原作の3話で描かれるクララのエピソード。入間のクラスメイトである彼女は「迷惑料」として、人がほしがるものをあげて友だちを作っていくんですが、「そんな物なくったって僕は君と一緒に遊びたいよ!」と入間が言って仲良くなる場面なんて象徴的です。また、クラスメイトのパーソナルな部分にスポットが当たるようになってくると、悪魔の家系に関する親の期待と自分のやりたいことの間で悩む子がいるなど、YA小説で見られるような通過儀礼的なエピソードも。悪魔の物語だけど、心情の部分はすごく等身大。懐が深いというか、少年漫画で見られる熱いところもありながら、ハートウォーミングな要素もありますよね。

西:ありがとうございます。「一番やさしくて、一番熱い」少年漫画を目指しているんです。これはずっと編集さんと話していて、連載開始当初から今も変わりません。あからさまなバイオレンスにはしたくなくて。悪魔なんだけど、悪い子がいないってよく言われますね。

約20分間。入間は、アスモデウスの攻撃をよけつづけていた。
なぜそんなことが可能だったかといえば、彼が不幸だったからである。
名付けるならば……“圧倒的危機回避能力”。
アホ両親に修羅場を連れ回された経験と、彼の「お人好し」な性格からくる平和主義。
それによって、
「あぶない!」「こわい!」「痛そう!」
というものを避けることに関して、彼は達人的であった。
攻撃力0・守備力∞(ムゲン)。
入間は良くも悪くも、「無害」な人間なのである。『小説 魔入りました! 入間くん ①悪魔のお友達』より

心の「ひだ」を文章に

――ノベライズされると聞いたとき、西さんはどう思われましたか?

西:不思議な感じがしましたね。小説化といえば独自のストーリーを書くことが多い印象でしたが、今回は原作をベースにノベライズするということで「そちらでいくのか」と。児童書として刊行することで、小学校などに置けるような作品にしたいということをお聞きしたので、素晴らしいと思って「こちらこそぜひお願いします!」という感じでした。

小説を拝読して感じたのは、私が描く漫画よりもみんな少しテンションが高いこと。あと、ちょっとだけ過激なところもありますね。展開や台詞回しで「小学生が読むのにここまで言っても大丈夫なの?」と感じる部分があって(笑)。でもちゃんと読んでみると「なるほど!」と納得できるというか。「小学生からするとこういうテンションの方が楽しいのかも」というのが、すごくわかりやすくて発見がありました。リアクションの大きさやツッコミの激しさも、「普通の男の子だったら確かにこう思うよな」と勉強になりました。

「どりゃ――!」
「なにをするか貴様ッ! オノを振るなッ!」
「修羅場、修羅場! 血みどろ家庭崩壊魔々ごとセットはね、妻と未亡人が夫を取りあって、コツニクの争いをくりひろげるんだよ!」
「教育に悪すぎる! もっと、健全な遊びを……」『小説 魔入りました! 入間くん ①悪魔のお友達』より

針:小説は感情移入できた方が面白いので、リアクションなどを強調した方がいい場合があるんです。漫画は絵の華やかさで楽しく読んでもらえるけど、文章だけだとそうはいかないので、心の「ひだ」のところを突っ込んでいく感じですかね。

西:そう、漫画は絵があるから説明がついている場合があって。だからこそ、文字だけですべてを表現しようとする「小説」を書ける人はすごいですよね。

針:でも、あまり踏み込むと西さんが考える世界観とズレてしまうのかな? という感じがあったので、気をつけましたね。入間くんって、感情が見えづらいところが結構あるんです。でも、そこを掘り下げすぎると、境遇が恵まれないぶん、物語が暗くなりすぎるというか。作品が持つコミカルさを失わないよう「このシーンでの表現はほどほどに」みたいなことは結構ありました。初稿を書き上げた段階で西さんに確認していただいたんですが、その指摘を目にすると、どういうバランス感覚でキャラや世界観を捉えていらっしゃるかが見えてきて興味深かったですね。西さんは、キャラをどのように作っていらっしゃるんですか?

『小説 魔入りました! 入間くん ①悪魔のお友達』より

西:キャラは物語が進む中で肉付けされていくことが多いですね。最初は悪魔関係の図鑑などを参考にするのですが、そこに寄せすぎると『入間くん』の登場キャラとしてブレそうなので、あまり読み込みすぎないようにしていますね。それに悪魔図鑑そのものが厄介な存在なんですよ。全く別の悪魔なのに能力が被っていたり、作業場にはすごい量の資料があるのですが、この悪魔とあの悪魔は同じなのでは? という内容の文献もあったりします。そうすると物語に支障が出るので「やめてくれ!」って思います(笑)。あとはキャラクターのギャップを大切にしています。私がギャップというものに魅力を感じるので、悪魔たちの意外な一面を読者に楽しんでもらえるように意識しています。

「欲」は生きる原動力

――『入間くん』はアニメにもなっていますが、原作者としてメディアが変わると作品の印象は変わりますか?

西:アニメは良い意味でやかましいですね(笑)。全部フルパワーで、作品に合っていると思います。漫画は週刊少年チャンピオンのメイン読者層である中高生をターゲットにしていたので、より下の世代から支持してもらえるようになったのは、アニメ化されたのが大きいと思います。今は、小学生への配慮も多少意識しています。

――入間くんはかなり恵まれない境遇ながら、それをなんだかんだ受け入れる度量や思いやりがありますよね。そんな入間くんの成長がこの作品の一つの見どころであり、そこに西さんの「人が生きるうえで大切なものは何か」というメッセージが込められているように思います。

西:他者との関わり方、愛情や恋など、人には生きる中で経験すべき物事が必ずあるはずです。でも、物語が始まった頃の入間はその経験が乏しく、幼い頃の環境のせいで、生きることさえできればそれ以上何も望まなくなってしまった無欲な少年です。その大切な経験や感情を魔界で見つけて成長していくのが入間の物語ですね。

「自分はこうしたい!」という主張というか、ある種の「欲」というものは、人が何かをするための原動力、成長のきっかけになると私は思っていて。それが漫画で描きたいことの一つです。悪魔や魔界は「欲」がすごく大事な世界。だから、入間の成長譚を描くにあたって、魔界という舞台はぴったりだったと思っています。『入間くん』を通して読者の子たちには、欲に正直というか、主張することの大切さを感じてほしいとも思っています。