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【記者推し】藤井誠一郎著『ごみ収集とまちづくり』 ごみ収集、頭脳労働の現場

藤井誠一郎著『ごみ収集とまちづくり――清掃の現場から考える地方自治』(朝日選書)

 自宅のごみ出しを担当しているので、ごみ収集車が何時ごろに回収にやってくるかを把握しておくことは死活的な問題だ。うっかり間に合わないようなことがあれば、家庭内で無能の烙印(らくいん)を押されかねない。だが、ごみ収集の実情については、ほとんど知らない。8月に出版された藤井誠一郎『ごみ収集とまちづくり』(朝日選書)は、清掃作業の奥深さを知ることができる待望の書だ。

 同書の特徴は徹底したフィールドワークにある。45歳で大学職員から研究者の大学教員へと転じた筆者は、自身も作業に加わることで現場の実態をつかもうとする。東京都北区で約20回。ごみ収集の技が研究者の目で記録される。

 戸別収集では、劣化し、開け方が異なるごみバケツから素早くごみを取り出していく。玄関先には不燃ごみかどうか紛らわしいものも置いてある。狭い路地での人力の収集は、各戸の配置を頭に入れる必要がある。

 小型プレス車、小型特殊車、軽小型ダンプ車を効率的に使い、量が変動するごみを時間内に収集していく。「単純肉体労働のイメージが先行しがち」だが、「頭脳労働の側面も兼ね備えている」と筆者は記す。ごみ収集が滞れば、たちどころに日常生活に支障をきたす。だが、ギリギリまで効率化された清掃事業は、想定外の事態に対応できなくなっているとも指摘する。コロナ下のいま、重い問いかけだ。(西田健作)=朝日新聞2021年9月15日掲載