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東理夫さん「アメリカのありふれた町で」インタビュー 自由の風、旅は終わらず

東理夫さん

 アメリカという国のキーワードの一つに「移動」があり、それは「自由」と不可分のものとしてある。

 詩人ホイットマンの「オープンロードの歌」や、晩年まで旅を続けた作家スタインベックに触れながら、著者はこう語る。「移動しなさい、と言っているような国ですよね。ハイウェーが出来る前から、この先に夢があり可能性があるんだ、と」

 その広大な大陸を著者は長く、さまざまに、旅してきた。旅人にとって古今東西変わらぬ最大の武器は笑顔だが、この人も例外ではない。

 ブルーグラス奏者で、アメリカ文化に通暁し、著作は数多い。とりわけ『コンプリート版 アメリカは歌う。』『アメリカは食べる。』の両大作は、この未完の実験国家を根っこから考える優れた文化史である。

 雑誌連載をもとにした本書では、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド、そしてビリー・ザ・キッドらの足跡を各地に追った。ロデオのスターを描く一編や、アラモ砦(とりで)に漢詩の碑を残した志賀重昂(しげたか)の話など、どれも細部をゆるがせにしない探求心で読者を現場に引っ張り込む。

 「この下に何があるのだろうと石ころを持ち上げると、またその下に何かあるんですよ」。そうやってアメリカをあちこちほじくり返してきた。足を運んでいるから、どの作品にもその時々の風が吹いている。

 両親はカナダの日系2世で、自身は日本の生まれ育ちでも、英語が日常の言葉としてあった。アメリカの行く先々で図書館や記録保管所に入り、本書でも印象的な挿話が出てくる。著者同様ビリー・ザ・キッドを調べている女性に出くわすのだが、やりとりたるやほとんど映画の一場面、アメリカ好きにはたまらない。

 いま「移動」を主題にした作品を準備している。父とその旅路についても、初めてきちんと追ってみたいという。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2021年10月9日掲載