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「アメリカンビレッジの夜」書評 狭間の現実 金網の両側で見る

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2021年10月23日
アメリカンビレッジの夜 基地の町・沖縄に生きる女たち 著者:アケミ・ジョンソン 出版社:紀伊國屋書店 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784314011822
発売⽇: 2021/08/31
サイズ: 19cm/424p

「アメリカンビレッジの夜」 [編]アケミ・ジョンソン

 辺野古で新基地の建設に抗議するデモ。前を横切る米軍専用車を運転する「沖縄人」の私を見つけたら、彼らは「裏切り者」と非難しないか。これは元米兵の妻が、実際に抱いた恐れだ。過重な基地負担を不当と感じ、郷土芸能に「沖縄人の血が騒ぐ」。それでも、基地とは「切っても切れない関係になっている」。
 基地に賛成か反対か。選挙を頂点に、地域を分断する論争は、彼女のような存在を弾(はじ)き出す。占領から75年余り、女性たちは米兵から性暴力を被る一方で、結婚して身内となるなど、狭間(はざま)に立たされてきた。たとえば、黒人兵との恋愛を夢見てクラブに通う若者。米軍と住民との架け橋を自任する基地従業員。親族に米兵がいながらも、抵抗を続ける活動家。能動的に基地に関わる彼女たちの肉声が詰まった本書は、単純化された沖縄像を突き崩す。
 日系4世の米国人女性という立場を活(い)かし、著者は基地の金網の両側を行き来して、この狭間の現実を捉える。内側で見たのは、現地女性の「保護者」を気取る男たちや自殺と犯罪の蔓延(まんえん)。地球規模の軍事基地網が「帝国の辺境」に持ち込んだ米国の縮図だった。
 外側ではどうか。アメラジアンと呼ばれる「混合人種」の子どもたちは、人種や英語能力で細かく序列化され、息苦しい日常を強いられる。沖縄も、米国以上に「人種の純血と階級の神話」に取り憑(つ)かれた日本の一部だからだ。こうして本書は、基地をめぐる小さな物語を綴(つづ)り合わせて、「誰かの利益のために」「お互いに闘うよう強いられている」沖縄を作り出した、より大きな構造を射抜く。
 だが沖縄は、玉城デニーという「日本で最初の混合人種の県知事」を選んだ。米軍占領に由来する出自を持つ人物が、その由来を誇りに「沖縄人」として基地縮小のために闘う。著者とともに、そこに変化への希望を抱く時、変われないこの社会を省みて、嘆息してばかりではすまされない。
    ◇
Akemi Johnson ジャーナリスト、作家。ハワイ大などで教え、沖縄について執筆。アイオワ大大学院修了。