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「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」書評 負担強いる社会で肯定感上げる

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2021年10月23日
妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ (集英社新書) 著者:橋迫 瑞穂 出版社:集英社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784087211801
発売⽇: 2021/08/17
サイズ: 18cm/220p

「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」 [著]橋迫瑞穂

 妊娠・出産とスピリチュアリティが好相性であることは、みんななんとなく了解しているんじゃないだろうか。産科医療がどれほど発達しようとも、生命の神秘を感じずにいられないのが妊娠・出産であると。不思議だね。奇跡かも。そんな雰囲気語りを私もしたことがある。本書を読むと、現代の日本においてスピリチュアリティが市場を獲得し、妊娠・出産の現場にかなり食い込んでいることがわかる。そこで行われているのは、雰囲気語りなどではない。マジの語りだ。
 著者は、過去に出版された書籍を分析の対象として、スピリチュアリティがメディアと結託しながらいかに市場を拡大してきたかを克明に描き出している。産婦人科医や助産師といったプロが、女性をスピリチュアリティへと誘う言葉をたくさん書き残していることにまず驚かされた。「産科医療vs.スピリチュアリティ」ではないのだ。
 「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」をキーワードに展開される分析もまた驚きの連続。子宮の声に耳を傾けるとハッピーになれます。赤ちゃんには胎内記憶があるのだから、胎教を頑張りましょう。心身を整えれば自然なお産は可能です。識者のメッセージは時に非科学的すぎるし、荒唐無稽でもあるのだが、それが女性の自己肯定感をグイグイ引き上げていく。
 スピリチュアリティに勇気づけられる女性が後を絶たないのは、それが女性に多くの負担を強いる妊娠・出産をなんとか前向きに捉えるための手段だからだ。妊娠・出産によってキャリアが中断され、産んだ後も「保育園落ちた日本死ね」と言いたくなるような社会で、母となる者たちが摑(つか)んだ藁(わら)。それがスピリチュアリティなのである。しかもこの国では、フェミニズムが妊娠・出産とうまく接続しなかったという。フェミの代わりのスピだったのか。同じ女性であるはずの私も知らないことばかりで、本当に蒙(もう)を啓(ひら)かれた。
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はしさこ・みずほ 1979年生まれ。立教大などで兼任講師(宗教社会学)。著書に『占いをまとう少女たち』。