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石井玄さん「アフタートーク」インタビュー 自分らしさないのが自分

石井玄さん

 オールナイトニッポンの制作に長く関わり、2018年から昨年までチーフディレクターを務めた。その職はニッポン放送の社員がずっと務めていたが、制作会社の社員が担うことに。その第1号だ。

 ラジオの仕事に「ぼく」がどう向き合ってきたかをモノローグ風につづった。きっかけはツイッターを見た編集者からの依頼。「どうせ」という周りの雰囲気にあらがう熱いつぶやきに興味を持ったという。

 常に熱いわけではない。個性がないことを「無色透明の個性」と自分で分析する。「それが長所だったかも、と気付いたのは最近です」

 無色ゆえ何色にも染まれるので、個性豊かなパーソナリティーの色を濃くすることに注力した。仕事に妥協しない星野源氏やオードリーの2人とはそれぞれ、ラジオブースでの2時間生演奏や武道館ライブなどを敢行。壁の多さに身も心もやつしながら、「大変そう」が「面白そう」に変わる手応えを知った。「ぼくの色の番組はひとつもない」

 裏方の仕事を振り返る放送作家との対談からはフットワークの軽さ、抜群の調整力が浮かび上がる。自分らしさとは無縁のところで語られる営みはすがすがしい。

 学生時代、周りになじめず、世界が急に色を失っていく体験をした時、ラジオの面白くてくだらない話に「生きていてもいい」と思えた。就職後は、センスのなさに落ち込みながら、どんな仕事も引き受けた。何でもやってみないとわからない。

 「ラジオの魅力は自由なところ。若い子から番組を聴き始めたとか、ラジオで働きたいと感想が届くとうれしい。次の世代につなぎたい」

 昨年、ディレクター職に区切りをつけ、制作会社を退社。今はニッポン放送でイベント企画に携わり、ラジオ業界の活性化に取り組む。(文・加来由子 写真・外山俊樹)=朝日新聞2021年10月23日掲載