1. HOME
  2. コラム
  3. BLことはじめ
  4. BL担当書店員が選ぶ「イケオジが素敵なおじさんBL」

BL担当書店員が選ぶ「イケオジが素敵なおじさんBL」

言葉に重みが宿る。今を生きるイケオジ(井上將利)

 今回は「イケオジ」をテーマに臨んでいきたいと思いますが、よく考えたら最近ご紹介した作品、ほとんどイケてるおじ様が登場していることに気付きました。不思議ですね(笑)

 さて、そんなこんなで満を持してご紹介するのは、糸井のぞさんの「グレーとブルーのあいまで」(プランタン出版)です。

  本作では平凡な高校教師・甲太郎、その義父で五十過ぎのゲイ・庚子(こうし)、そして甲太郎の教え子・小夜谷(さよたに)という3人の男が登場し、はっきりとした三角関係というよりは3人が互いに影響を与えながら少しずつ変わっていく、そんな構図で描かれているのが面白いポイントです。

  甲太郎の妻は夢を追いかけ海外留学中。残された&放っておかれた甲太郎は、ある日、ケガをしたという義父・庚子の様子を見に行くことに。するとそこで見知らぬ男とキスする庚子と鉢合わせて……。義父がゲイであるという秘密を知った甲太郎は動揺しつつも、この出来事から彼のことを理解しようと、時々庚子の元を訪れるようになるのでした。

 一方、甲太郎の教え子・小夜谷は若さと美貌を売りに男をとっかえひっかえして日々エンジョイ中のちょっと困った生徒。教師である甲太郎の忠告も右から左で、ある日バーで元カレに因縁を付けられ襲われてしまうのですが、そこに庚子が現れ小夜谷を助けるのでした。二人が初めて出会うこの場面、襲おうとする元カレの背後から「実にしゃぶりつきたくなるような背中だな」と登場する庚子の渋いセリフ、僕の脳内では某アニメの某大総統の声で再生され「渋カッコいい~」と勝手に盛り上がりました(笑)

 この出会いをきっかけに小夜谷は庚子に近づいていくのですが、10代の少年と五十過ぎの男という親子ほどの年の差もあり、庚子に完全に子ども扱いされ相手にしてもらえないのでした。けれどもブラックコーヒーも飲めない小夜谷ががむしゃらに大人になろうともがき、若さゆえのエネルギッシュなアプローチを続けるうちに庚子も少しだけ向き合ってくれるように。そんなやり取りの中で庚子が小夜谷に向ける言葉、そして甲太郎との会話での言葉、その一つひとつが人としての経験値と過去の自分を彼らに投影しながら発せられ、とても重みを感じさせます。それでも過去ではなく今を生きる。「今を愛してるからな」というセリフは本当にイケてます。

©糸井のぞ/プランタン出版 2016

 その後、想いを募らせる小夜谷は庚子に「付き合えジジイ」という壮絶な告白をして迫り、甲太郎は義父と教え子の関係に困惑を極め、そして庚子はある決心をするのですが、物語はここからさらに密度を増していきます。初めて真剣に恋した想い、もう本気の恋はしないという想い、それぞれの思惑がすれ違いながら3人の人間が段々と変わっていく様を見守って頂きたい、そんな作品です。

“坊ちゃま”なイケオジとの規格外ラブ(原周平)

 人間って年を重ねてきてからこそ、その人がどうやって人生を歩んできたのか、表情や性格や雰囲気に表れてきて魅力的に感じます。もう自分も三十後半ですが、素敵なおじさんになりたいと思う今日この頃です(笑)。BLでもおじさんが登場する作品は、おじさんならではのキャラクター性や物語にキュンとしがちなのですが、今回ご紹介の作品にも素敵なイケオジがいらっしゃいましたよ♪

 その作品が、雁須磨子さん「キッスインブルーヘブン」(講談社)

 カフェで働きながらサーファーをしている欽之介(きんちゃん)は、ちょっとだけびっくりするような“ときめき”を求める25歳。そんなきんちゃんの波で遊ぶ日常を壊したのは、一台の黒塗りの車。高級車から現れたのは場違いな執事で、「坊ちゃまがお昼をご一緒したい」と突然の申し出。浜からも見える高台の別荘へ向かうと、登場した“坊ちゃま”は父親かと思うようなオジ様、雪親(ゆきちか)でした。予想もしていなかった出会いだったものの、楽しい時間を過ごした2人はちょこちょこと一緒の時間を過ごすようになります。そして、なんとなく雪親の気持ちを察したきんちゃん、男性との経験はなかったけれど、予定調和な毎日を崩してくれそうなこの関係に自ら飛び込んでいっちゃいます。

 結果的にすさまじいほどにやさしくされてしまったきんちゃん(笑)、こうして2人は恋仲になったのですが、きんちゃんが勝手にひと夏のアバンチュールと勘違いしたり、謎の男が登場してクルーザーに拉致されたり、と凪のように平凡な恋路ではありません! 果たしてびっくりするような恋の行く先はどうなるのか……。

 さて今回のイケオジ、雪親ですが、別荘を持っているだけあって裕福な家庭であることは間違いありません。が、ただのお金持ちな訳ではなくて、とても紳士的で、観葉植物みたいな佇まいで、経験豊富な人なのです。ハイスぺをひけらかすこともなく、きんちゃんの友人に対しても礼儀正しく接するところとか、中身が伴ったイケオジだなーと思いました! 住む世界が違うときんちゃんが怯んでしまうのも分かる気はしますが、そんなことは微塵も考えずに、きんちゃんと向き合っているのもかっこいい。

 「積んで壊して…また積んで 波と一緒だね それでなくなるわけじゃない」――。これまで読んだ作品のなかでも特に好きなセリフです。思い出を積み重ねていくことをこんな風に考えられたら、素敵なオトナですよね~。対照的な2人、これから色々あるだろうけど、ほのぼのと末永く一緒に歩いていってくれそうな、なんだかピッタリなカップルでほっこりが溢れました。

雁須磨子「キッスインブルーヘブン」(講談社)

 表紙からも感じられる雁須磨子さんの独特で温かい絵柄や、作中の言葉遣いも相まって、とても読み心地のよい世界が体験できます。しみじみとたまに読み返したくなる一作。イケオジ好きも、そうでない方も、是非手に取ってみてください。