ISBN: 9784594089535
発売⽇: 2021/12/14
サイズ: 19cm/203p
『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』 [著]清田隆之(桃山商事)
著者はこれまで数多くの「恋バナ」を収集し、文章にしてきた人物。主として女性から寄せられるエピソードを通して、恋愛とジェンダーの問題を考察し続けてきた。恋バナから透けて見える男性のダメさを指摘するのみならず、我がことのように反省もする。決して男性擁護には傾かない。だから女に媚(こ)びていると叩(たた)かれたりもする。なんとも難儀な仕事だ。
そんな彼が今度は男性から話を聞くという。インタビュイーとして登場する10人は、ざっくり「一般男性」と括(くく)られている。実はこれが本書のキモ。特別でも個性的でもない(ということになっている)彼らが語るあれこれが、なぜか面白い。それは、自己アピール型の語りを放棄し、笑いが取れる自虐的な語りも退けて、等身大の自分をさらけだしているからだろう。
上から目線の発言がやめられなかった男性が、医師の力を借りて自分の思考の癖を知り、「どんな内容であっても自分が感じていることを正直に言語化するのが気持ちいい」と思えるようになるまでの話が印象深かった。彼の場合、男らしく賢げな語りを放棄した先に、自分らしい語りが見つかったのである。また、シングルファーザーの男性が、子育てから多くを学び、精神的に成長する一方、元妻と義母に対しては職業差別的な発言をやめられないあたりに、なんとも言えない闇を感じたりもした。
本書の功績は、不可視の領域に閉じ込められがちな一般男性の多様性を掘り起こしたことにある。どの語りもゴツゴツと不格好。だが、そこからしか見えてこない繊細な胸中がある。
日本男児もずいぶん軟弱になったと感じる読者もいそうだが、自分を素直に開示できるだけの強さを手に入れつつあると考えた方がよさそう。「男らしさ」の鎧(よろい)を脱いだ男たちは、みなどこか晴れ晴れとしている。強がりという名の美学はもうそろそろおしまいにした方がいいのかも知れない。
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きよた・たかゆき 1980年生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。著書に『さよなら、俺たち』など。