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BL担当書店員のイチオシ! 「働く姿にも萌える♡オフィスラブBL」

一途な思いが救いをもたらす、冬の恋物語(井上將利)

 今回のテーマであるオフィスラブについて考えたときに、ふと最近はテレワークやら在宅勤務が増えたことで職場での恋愛事情にも変化があるのでは……?と疑問に思いました。もしかして「オフィスラブ」ってもう死語だったりして(笑)。

 でも作品の中ではちゃんと生きていますからご安心を。今回ご紹介するのは、ほどさんの「あてない処に君あらば」(大洋図書)です。3冊目のコミックスとなる本作では専門学校の広報職員である先輩後輩のお話となっております。数カ月前に入社した佐伯は先輩の高嶋に想いを寄せているのですが、その気持ちは心にしまっておくつもりでした。しかし出張先でのトラブルの果てに思いがけず告白してしまった挙句、高嶋に受け入れられて体を重ねることに……。もしかして第1話でハッピーエンド?と思ってしまう超急速展開で始まる本作ですが、本題はここから。

「あてない処に君あらば」より ©ほど/大洋図書

 佐伯は想いを受け入れてくれた高嶋と距離を縮めようと積極的にアプローチするのですが、高嶋はどこか浮かない表情を見せ、一定の距離を置こうとします。高嶋の気持ちが本当に自分に向けられているのか、不安になる佐伯。そして、ある出来事をきっかけに、高嶋が今は亡き人への想いを抱え続けている事実が明らかに。偶然にもそれは佐伯も知っている人物で……。物語は急にシリアスな雰囲気を漂わせ、高嶋の過去にスポットライトが当たっていきます。

 作中では佐伯の想いに真っ直ぐ応えられない高嶋が口癖のように「ごめん」と謝ってしまう描写が多くあるのですが、自分の本心が別の所にある後ろめたさや罪悪感のような感情が高嶋にそうさせているのかなと感じつつ、何気なく「ごめん」って言ってしまうことってあるよなぁ……と少し共感してしまいました。個人的な解釈ですが、自分自身に、それしか言えない自分に対しての「ごめん」なんだろうな……、と。

 一方、佐伯の方はそんな高嶋に対しても彼の全てを愛そうとするブレない想いがすごい伝わってくるキャラですね。もう全力で愛しに行ってる感じ。「俺の何が好きなの?」と高嶋に聞かれて「全部ですよ!」と即答するくらいに全力投球な姿は、もはや清々しく思えました。

 さてさて物語の行方も気になるところで、2人に共通する人物とは誰なのか、そして2人の気持ちは本当の意味で通じ合うのか。作者の描く繊細な心理描写や表情と共にお楽しみください!

淫魔が恋のキューピッド!?(原周平)

 働く環境も大きく変わってきて、スーツを着てオフィスで仕事!というのもこれからは珍しいものになってしまいそうですね。でもやっぱりパリッとスーツを着こなして働く姿はかっこいいものです。さらにその姿とのギャップが垣間見えるとなお良し♪というわけで、今回出会った作品はこちら!

 ぽけろうさん「ご馳走さまが聞こえない!」(リブレ)

 とあるメーカーで営業として働く内瀬(うつせ)。その上司が主任・外川です。外川は営業としての成績と、「史上最も笑わない営業」という肩書きを両立させる超人。内瀬も彼の能力に憧れ、目標としてきていました。見た目も言動もデキるサラリーマン!という感じの外川が、突如淫魔(インキュバス)に憑依されてしまい、淫魔の魔力(=宿主の命)を維持するためには性的快感を得なくてはならない、というとんでもないことに巻き込まれてしまいます。そして、いろんな忖度の結果、内瀬が外川の相手として自らの体を捧げることにしたのでした……(笑)。

 そんな感じでコメディテイストで始まるお話ですが、ただHなだけじゃなくて、2人のキャラクターや、恋愛へ向かう道のりの中での心情の描き方がとても良いんです!

 超真面目なので上司と部下という関係に悩み、なるべく負担の少ない手段で解決しようとする外川。魔力を補うため、淫魔の力も借りつつ体を繋げはしますが、終わった後の気遣いや「…ご馳走さまでした…?」というセリフにいい人っぷりが溢れています。入社当時、使えないと言われていた内瀬の面倒を引き受け、営業のノウハウを教えるだけではなく、内瀬が本来持っている良いところを見出し褒めてあげる神上司。さらに脱いだら体まで均整の取れたマッチョ!こんな完璧な上司いる!?という魅力のある人で、尊敬の域に達しています。内瀬が目標とするのも納得です。

 内瀬も外川の役に立ちたいという気持ちから淫魔の食事のための行為に協力しながらも、だんだんと自分の気持ちに気付いていきます。我慢してしまいがちな外川のことを気にかけ、「お食事券」で誘いやすくしてみる内瀬……。顔を赤らめながら渡すとか、優しさが可愛すぎる!

「ご馳走さまが聞こえない!」より ©Pokerou/DPN BOOKS 2022/libre

 淫魔に翻弄されながらも体を重ねることで距離が近づく2人ですが、男同士での行為をお互い嫌々やっていると思い込み、すれ違ってしまうことも。それぞれが本当に相手のことを思いやっているからこそで、切ないけど素敵。淫魔も良い奴なのか悪い奴なのかよく分からずじまいでしたが(笑)、外川の執着を自覚させ、内瀬の本音を引き出してナイスアシスト!? 強制的に体から始まった2人の変化を追いながら、ラブラブな結末まで楽しめました~!

 絵柄もとてもきれいで、外川と内瀬、それぞれの描かれ方もキャラクターにぴったりで体格差も際立ちまくりです。時折出るデフォルメ顔もキュート♪ Hもストーリーも、仕事を頑張るサラリーマンも堪能できる作品です!