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バンドの軌跡を至近距離から記録した「あの頃、忌野清志郎と」 安田浩一が薦める新刊文庫3点

安田浩一が薦める文庫この新刊!

  1. 『あの頃、忌野清志郎と ボスと私の40年』 片岡たまき著 ちくま文庫 968円
  2. 『牧野富太郎と、山』 牧野富太郎著 ヤマケイ文庫 990円
  3. 『満蒙開拓団 国策の虜囚』 加藤聖文著 岩波現代文庫 1672円

 (1)私は清志郎になりたかった。高校時代にはRCサクセションのコピーバンドを組んだ。だから――清志郎のマネジャーを務めた著者が羨(うらや)ましくてたまらない。RCのファンだった彼女は、願い叶(かな)って所属事務所に入社、清志郎の“世話役”として苦楽を共にした。本書からは、至近距離にいたからこそ見ることのできた生身の清志郎が浮かび上がる。さらには反原発を訴えたアルバムの発売中止問題や、メンバー間の確執、活動休止の内実など、「いい事ばかりはありゃしない」清志郎とその仲間たちの軌跡もしっかり描かれる。

 (2)そこに草木や花があるから。山に登る理由を問われたら、“牧野博士”はそう答えたであろう。「植物の愛人」を自称する人だ。各地の山々を訪ねては愛する植物たちと触れ合い、見つめあい、その豊饒(ほうじょう)な時間がユーモアと臨場感に満ちた筆致で綴(つづ)られる。北へ、南へ、そして博士にとっての原風景ともいうべき土佐へ。列島の植物たちと出会った博士は一句詠む。「朝な夕なに草木を友にすればさびしいひまない」

 (3)国策として満州(中国東北部)に送り出され、戦局の悪化に伴って見放された。それが「満蒙開拓団」の運命だった。日本の存在感を見せつけるといった軍部の思惑も重なり、27万人にも及ぶ人々は侵略の頭数となりながら、破滅への道を突き進む。残留日本人問題、集団自決の悲劇はなぜ起きたのか。計画段階からの豊富な資料を紐解(ひもと)きながら、無謀な国策の内実に迫る。=朝日新聞2023年3月25日掲載