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「シン・物流革命」鈴木邦成さんインタビュー 先端技術取り込み、夢ふくらむ進化

未来の物流の可能性について説明する鈴木邦成・日本大学教授=東京都大田区の東京流通センターで、撮影・松嶋愛

倉庫がロボットに指示を出す「考える物流センター」も

――「経営の神様」といわれたピーター・ドラッカー氏は生前、「物流とは、最後の暗黒大陸である」という言葉を残しています。企業の経営課題を論じるとき、優先されたのは売り上げに直結する営業力や研究開発力などであって、物流は後回しにされてきたのでしょうか。

 確かに20世紀までの物流は、企業経営において「縁の下の力持ち」だったかもしれません。単なる物品の保管や輸送を担えばいいと。ですが、人々の消費行動がネット通販に移り、さらには、「購入した商品をすぐ届けてほしい」というニーズに応えるのが当たり前の時代となる中で、「ロジスティクス」(戦略物流)へと進化しました。

 高度な情報システムを駆使し、在庫管理から検品、仕分け、配送に至るまで緻密(ちみつ)に管理し、物流の最適化を追求する。暗黒時代はとうに過ぎ去り、物流の巧拙が、企業の競争力を左右する時代になったといっても過言ではありません。幹線道路沿いなどで見かけることが多くなったアマゾンの倉庫などは、現代の情報技術の最前線が詰まっていて、決して全容は明かされません。

鈴木邦成・日本大学教授=東京都大田区の東京流通センターで、撮影・松嶋愛

――政府は、新東名高速道路を皮切りに、2027年度までに自動運転で走るトラックの専用レーンを全国100カ所に広げる計画です。ドローンを使って空から荷物を届ける配送でも、埼玉県に約150キロのルートを設置するといいます。鈴木さんの著書のタイトル通り、「シン・物流革命」が起きようとしているのでしょうか。

 民間の動きも活発で、ヤマト運輸は「ロボネコヤマト」という自動運転車による配送実験を、佐川急便もソフトバンクと組んで自動走行ロボットによる配送実験に取り組んでいます。実際に公道を走る自動運転は法律の整備も道半ばで、実用化にはまだ時間がかかるでしょうが、ゆくゆくはロボットが、配送スタッフとして町中を闊歩(かっぽ)する時代が来ると思いますよ。

 一方で屋内ならば、フォークリフトの自動運転がすでに始まっています。AI(人工知能)を搭載し、機械学習を重ねることで、倉庫内の移動経路や運搬スケジュールを自律的に決定し、動いているわけです。日用品大手の花王は、その一歩先をいく倉庫の完全自動化を見すえています。これまで人が行ってきた在庫の調整や入出庫といった判断を、倉庫が自ら計算し、ロボットに指示を出す、いわば「考える物流センター」です。

 こうした動きは海外でも顕著で、グーグルは自動運転で走る無人タクシーをスマホから呼び出すサービスをすでに始めています。フェデックスは無人配送を次世代戦略の中核に置き、自律配送型ロボット「フェデックス・セイムデー・ボット」を開発して注目を集めました。「無人化」や「自動化」は、アフターコロナ時代の物流のキーワードになっています。有人飛行で月面着陸を目指す米国の「アルテミス計画」と同じくらい、夢が膨らみますよね。

鈴木邦成・日本大学教授=東京都大田区の東京流通センターで、撮影・松嶋愛

「物流城下町」が増えていく

――鈴木さんは、物流倉庫と周辺住民が共存する「物流城下町」が地域活性化につながる、とも提唱されていますね。

 実際にそうした事例は出てきています。昨年、千葉・流山に建てられた「アルファリンク流山」は、延べ床面積が90万平キロメートルと日本最大クラスです。その巨大さゆえか、当初、周辺住民からは不安の声も上がりましたが、共用のカフェや食堂を設置したり、イベントや子供たちの活動発表の場としてスペースを提供したりすることで、今では憩いの場になっています。車で屋上まで上ることができ、非常用電源も備えているため防災拠点としても期待されています。何より、地域の雇用を生んでいることも大きい。

 大型物流施設はこれまで、投資ファンドなどがREIT(不動産投資信託)を組成して投資家に売買する金融商品の対象という見られ方が一般的でした。安全性や機密性が重視されるあまり、地域と隔絶された閉鎖的な場所という見方もされていたと思いますが、変化も生まれているなと。自動車や電機メーカーの工場周辺はよく企業城下町といわれますが、ネット通販の隆盛を背景に、物流倉庫が生み出す「物流城下町」が今後、各地に増えていくのではと感じています。

――一方で、荷物を運ぶドライバーは慢性的な人手不足と聞きます。時間外労働に上限を課す改正労働基準法が24年4月に施行されると、人手不足に拍車がかかり、「2024年問題」とも言われていますね。

 なぜ人手不足が生じるのか。それは低賃金と長時間労働という、ドライバーの待遇の悪さが放置されてきたからです。今回の法改正で、長時間労働にはメスが入るわけですが、もう一方の低賃金を解消するには、荷主が物流業者に適正な運賃を支払う必要がある。法改正が、荷主、物流業者、ドライバーの「三方良し」となる環境を整えるきっかけになってほしいと思っています。

 自動運転や工場の無人化など「人から機械へ」のシフトは、もちろん人手不足の解消に効果があります。それを実現するために、高度な技術を扱えるエンジニアをこの業界にもっと増やしたい。ロジスティクスの専門人材の育成も、「シン・物流革命」を結実させる重要な要素だと考えています。

『シン・物流革命』(幻冬舎)