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大岡信賞の野村喜和夫さん・岬多可子さん、詩作を語り合う「強くないからこそ、芯を持つ言葉を」

野村喜和夫さん(左)と岬多可子さん(右)

 第4回大岡信賞を受賞した野村喜和夫さんと、第2回の受賞者・岬多可子さん、2人の詩人による対談イベントが先月30日、東京・下北沢の本屋B&Bで開かれた。野村さんの詩集「美しい人生」(港の人、2022年)と、岬さんの詩集「あかるい水になるように」(書肆山田、20年)からそれぞれ朗読を交えながら語り合った。

 野村さんは「あかるい水になるように」について「水、火、大気、土という4大元素が詩のなかに何度も現れる。精緻(せいち)なまなざしで庭を見つめている。それが岬さんのポエジーですね」と話し、岬さんと共通するキーワードを持つ自身の詩を朗読していった。

 岬さんが「美しい人生」について「本当のことを言えば、人生は美しいなんてとても思えない。それでも『美しい人生』というタイトルをつけたことに勇気を感じた」と話すと野村さんは、「最初はアイロニー(皮肉)として書いてみようと思っていた」と明かした。「アイロニーであってアイロニーじゃないというのがいちばん理想的なことばの状態なのかなと思っている。人生は美しくないけれど、それでも美しい面はある。全体としてみると醜悪でみじめだけれど、部分部分は美しい、という逆説を生きてみようと思った」

 話題は詩作への姿勢にも及んだ。

 岬さんは、「野村さんは違った書き方で2、3種類の作品を同時並行的に進めていくとおっしゃっていた。それはどういう感じなのでしょうか」と投げかけた。野村さんは、「詩人には二つのタイプがある。一つは徹底的に一つを追究するタイプ。もう一つはテーマや書き方が変容していくタイプ。ぼくは後者なんです」と応じた。

 野村さんが「岬さんにとって庭とは?」と尋ねると「考えたことがないけれど……たぶん心ですね」という答えが返ってきた。「草や虫が好きで、無理やり自分に引き寄せて書いています。大岡賞を受賞したときに、私の詩には小さいもの、弱いものへのまなざしがあるという言葉をいただいた。自分自身が小さくて弱い、もろくて愚か、という自覚があるんですよね。自分が強くはないからこそ、強い芯を持つ言葉を探したい。繊細さに欠けているからこそ、繊細な言葉を探したい」(田中瞳子)=朝日新聞2023年6月21日掲載