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「リアリティ+」(上・下)書評 大前提から問い直す精緻な思考

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2023年06月24日
リアリティ+ バーチャル世界をめぐる哲学の挑戦 上 著者:高橋 則明 出版社:NHK出版 ジャンル:コンピュータ・情報科学読みもの

ISBN: 9784140819364
発売⽇: 2023/03/25
サイズ: 19cm/413p

リアリティ+ バーチャル世界をめぐる哲学の挑戦 下 著者:高橋 則明 出版社:NHK出版 ジャンル:コンピュータ・情報科学読みもの

ISBN: 9784140819371
発売⽇: 2023/03/25
サイズ: 19cm/333p

「リアリティ+」(上・下) [著]デイヴィッド・J・チャーマーズ

 哲学者でない私たちは、どのように哲学書を読むことができるだろう。私のお薦めは次のようだ。
(1)いち概念に対する細やかで精緻(せいち)な洞察を味わう
(2)世界の「わからなさ」を知る
 コロナ禍以降、「リアルか、オンラインか」という問いが頻繁に出されるようになった。何でもリアルがいいわけではない。オンライン(本書ではバーチャルと記載)には可能性がある。リアルでないとできないことがある、などなど。
 こう私たちが議論するとき、世界がリアルとオンラインに分かれることは自明のこととなっている。だから、どちらが良いかという価値をめぐる議論がすぐさま始まる。
 翻って哲学者はこうは考えない。かれらの思考はこんな道筋を辿(たど)るからだ。著者のチャーマーズは次のように問いの立て方を整理する。
(1)リアルとは何か?(形而上学(けいじじょうがく)的問い)
(2)私たちはどのようにして「リアル」を知ることができるのか?(認識論上の問い)
(3)リアルはオンラインより優れているのか?(価値の問い)
 本書は7部24章で構成されるが、(3)の価値に関する問いが登場するのは、なんと第6部17章から。
 私たちが一足飛びに語り出したリアルVS.オンラインの問い。しかし「リアル」を探究する哲学者が、同じ問いに取り組むと、前段にこれだけの頁(ページ)を要してしまう。
 結論を先取りすると、著者はこの問いを棄却する。なぜなら著者は「オンラインもリアルと変わらないリアルである」と結論づけるからだ。本書を手にとる読者は、この結論が導かれるまでの精緻な思考をぜひ味わってほしい。
 バーチャルという現代的なテーマを扱いながら、デカルト、バークリーといった哲学の古典も網羅する。学問の広がりと深さを十全に感じさせる一般に向けた大著である。
    ◇
David J.Chalmers 1966年生まれ、哲学者・認知科学者。ニューヨーク大教授。著書に『意識の諸相』など。