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滝沢カレンさん「馴染み知らずの物語」インタビュー 言葉が羽を伸ばす妄想力

滝沢カレンさん

 名作のタイトルとあらすじをヒントに、似ても似つかぬ物語を生み出す。『みだれ髪』の主人公は「髪の毛がこんがらにもこんがり合う、絡まりボサボサ頭の女」に、『若きウェルテルの悩み』はコンタクトデビューを恥じらう高校生の話に変身した。

 読書好きだが、読破した本は多くはない。数十ページめくってはその世界に浸って手が止まり、別の本、また別の本へと興味も移ってゆく。いつしか内容がごっちゃになって、全部読んだ気分になってしまう。

 空想は日常生活でも際限なく広がる。たとえばハイヒール姿の人を見かけて、「この後にデートがあるのかな、デートがもしかして砂浜だったら、この人は埋まっちゃうのかな。埋まったら彼氏に助けてもらって、また距離が縮まって……」。そんな「妄想」力を買われて2018年にウェブサイト「好書好日」で始めた連載が、今作のもとになった。

 「ゴロンといたたまれない姿でフライパンに横たわる椎茸(しいたけ)」「春も春でいいとこだ」――。独特な言葉の使い方は、トーク番組や自身のインスタグラムに投稿するレシピなどでも注目を集めてきた。そのルーツは?とよく問われるが、「インターナショナルスクール出身でもない日本育ちですし、自分でも謎」という。

 意味よりも音で言葉を選ぶことが多い。「この響きを絶対に使いたいという時がなぜか急に来るので、ほぼ伝わらなくてもいいやと思いながら書いてます」。食材をはじめとするモノの擬人化、カレン流に言えば「心臓がないものに心臓を持たせる」のは、幼少期から愛するファンタジーに通じる感覚だ。

 6年目に入る連載を「修業」と呼ぶストイックかつ謙虚な一面も。「この本が本屋に羽を伸ばして、座ってくれてるだけが私のゴール。あとは、受け取った方の気持ち次第です」(文・田中ゑれ奈 写真・山本佳代子)=朝日新聞2023年6月24日掲載