1. HOME
  2. インタビュー
  3. ヒカシュー・巻上公一さん詩集「濃厚な虹を跨ぐ」 歌詞が活字になり「メロディーから解き放たれた」

ヒカシュー・巻上公一さん詩集「濃厚な虹を跨ぐ」 歌詞が活字になり「メロディーから解き放たれた」

巻上公一さん

 バンド「ヒカシュー」のリーダー、巻上公一さんが詩集「濃厚な虹を跨(また)ぐ」(左右社)を刊行した。2019年の初詩集「至高の妄想」(書肆山田)に続き、これまでに発表してきた楽曲の歌詞を中心とした72編を収めている。

 歌詞集ともいえるが、音楽として聞いていた言葉を活字にして見ると、印象が大きく変わることに驚く。表題作「濃厚な虹を跨ぐ」は意味を持つ言葉がほとんど登場しない12分弱の楽曲だ。詩集のなかでは〈らいろらいろらいろらいろら〉と11行繰り返され、四角いデザインが浮かび上がる。

 どう読めばいいのか戸惑う。だが巻上さんは、活字になることで言葉が自由になったと語る。「言葉がメロディーから解き放たれた。読者それぞれの勝手なタイム感で言葉を取り出すことができる。この詩集に、違う音楽をつけてくれてもいいんです」

 ヒカシューは今年で結成45周年。ロシアのトゥバ共和国で伝わる歌唱法、ホーメイの第一人者としても知られ、声の表現を追究してきた。20年に第1回大岡信賞を受賞したことをきっかけに、肩書に「詩人」を加えた。「本は特別な力を持っている。今までヒカシューの音楽を聴いてくれていた人たちも、こんな詩だったのか、と新鮮な感覚で言葉を見てくれました」

 日々思いついたことを書き留め、読み返すと新しい思考が生まれる。その繰り返しで不思議な言葉のつながりを持つ詩が誕生する。「見聞きしたものから詩が生まれるから、世の中に飽きないんですよ」。あとがきに、〈詩人は独自の反射神経で意味と意味と意味を反復横飛びする〉とある。予想外の着地についていけるか、読み手の力量をちゃめっ気たっぷりに問いかけてくる1冊だ。(田中瞳子)=朝日新聞2023年7月12日掲載