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BL担当書店員がセレクト! どこまで進化する!? オメガバースの世界

ベータ同士の特別な恋(井上將利)

 オメガバースはもはや定番ジャンルとして幅広い読者に定着している印象を受けます。数ある作品たちもみんな個性的で飽きないのがすごい所ですが、今回はオメガバースというテーマに対する着眼点や切り口において印象的だった作品、青梅あおさんの「君と運命についての話がしたい」(徳間書店)をご紹介します。

【あらすじ】
高校の同級生・幸史郎(こうしろう)と付き合って、同棲ももう10年になるサラリーマンの響(ひびき)。出会った当初は運命の番だと信じていたけれど、性別検査の結果は二人ともベータ。同じ男同士でも“運命の番”なら祝福されるのに人前で手さえも繋げないのがもどかしい――お互いが好きなら関係ないと言い聞かせても、些細なことで日に日に不安が増していく……。そんな時、性別検査の誤診のニュースを耳にして…!? 徳間書店「君と運命についての話がしたい」作品紹介より

 「アルファとオメガが出会い~」とか「“運命の番”が現れて~」といった物語が多い中で本作ではベータの2人が描かれています。いわゆるマジョリティであるベータ、アルファやオメガの関係性が特別視されがちな世の中において「普通の人」である彼等が感じる劣等感のような感覚、不安に感じる要素がとてもリアルに描かれていて、本来のオメガバースの世界に確かに存在するもう一つの側面を教えてくれるような気がしました。

「君と運命についての話がしたい」Ⓒ青梅あお/徳間書店

 幸史郎と響が互いにベータだと分かったとき、自分たちが特別な何かではないと実感し、何とも言えない不安を押し殺すように抱きしめ合う2人のシーンは印象的でした。

 そしてここから10年余り2人は共に歩んでいきます。作中では2人だけの成熟した関係性が丁寧に描かれていて、お互いのことを知り尽くした上で成り立っている日常のちょっとしたコミュニケーションやスキンシップが散りばめられています。特に2人でお出かけする場面では言葉には出さずとも相手のことを気遣ったり、相手を思って立ち振る舞ったりする2人の姿や絆を見て「素敵だな」と素直に感じました。

 ただそれでも、互いのことを全てわかっている訳ではなく、小さなことですれ違ったり喧嘩したり、心の奥にしまっていた不安が2人に試練をもたらします。それを一つひとつ乗り越えたら2人の絆がまた強くなるような、そんな“普通”にありふれた愛の話でありつつ、とても大事でかけがえのないことを教えてくれる作品だと感じます。

 これも一つの、そして素晴らしいオメガバースです。ぜひ読んでみてください。

愛はバース性を超えて(原周平)

 BLジャンルだけじゃなくていろいろな作品で「オメガバース」を見かけるようになってきましたね! ひとくちに「オメガバース」と言っても作品によって本当に個性豊かな世界観があるので面白いです。ちょっと変わった設定が物語に深みを与えてくれているな~と感じたこちらの作品を紹介します。

 神戸ゆみやさん「無花果さんは花が咲かない」(竹書房)

 アルファとオメガの権利は平等とされつつも、まだまだ偏見や差別が残る世界。オメガで警官の山田無花果(いちじく)は、第二の性が原因で起きるバース性関連の事件を担当しています。番であった優斗を6年前に亡くしている無花果は、恋人を作ることもなく、発情期には性風俗店からアルファを派遣してもらい性処理をしていました。

 新しい性が生まれた社会で、政府公認の福祉人材派遣(という名の性風俗)があったり、番を亡くした無花果は他のアルファに噛まれてしまうことがないようフェロモン腺を切除していたりと、ファンタジーな要素でもある「オメガバース」が現実に落とし込まれているところが物語に程よくリアリティを与えてくれて面白いポイントです!

 そんな彼のもとに、事故で両親を亡くしたアルファの子供・戸野愁人(しゅうと)が警察に保護されたと連絡が入ります。大切な人を亡くした者同士、寄り添って生きていけたらと、無花果は愁人と一緒に暮らすことを提案し、2人の物語は始まります。もともと強いアルファ性を持っていた愁人が、心の内に芽生えていく無花果に対する気持ちとバース性の狭間で悩みながらも成長する様が健気で応援せざるを得ない……! 思春期の愁人の思いと決意が伝わってくるこのシーンがとても好きです!

「無花果さんは花が咲かない」より ©神戸ゆみや/竹書房

 その後、無花果に気持ちを伝え断られながらも、番だった優斗の次に好きになってもらえるよう頑張りまくる愁人の純情、刺さります。父親として接することに徹し、亡くした夫を忘れずにいた無花果も、バース性を超えた愛情を向けてくれる愁人という存在が特別になっていきます。そして、天国から背中を押してくれた優斗、かっこよすぎです……(涙)。

 単巻作品ですが250ページくらいのボリュームがあり、愁人の幼少から成年期までを丁寧に描いてくれているので2人の気持ちに感情移入しやすくて最高でした。「オメガバース」作品らしく、抗えない互いのバース性のもと、求め合うシーンも濃厚!

 ラストには素直にはなりきれない無花果の気持ちがこっそり分かっちゃうのが読者の特権です(笑)。魅力的なキャラクターはもちろん、心理描写やタイトルの意味も最後まで読んで腑に落ちるストーリー構成もとても楽しめました。

 不幸だった2人が巡り合って愛を育んでいく物語、「オメガバース」の世界観がその出会いを「運命」だと感じさせてくれるように思います。ぜひ楽しんでください!