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「戦後日本政治史」書評 「ネオ55年体制」超克のためには

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月29日
戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで (中公新書) 著者:境家史郎 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121027528
発売⽇: 2023/05/24
サイズ: 18cm/304p

「戦後日本政治史」 [著]境家史郎

 今から約三十年前、大規模な政治改革が行われた。多くの人は、自民党支配の終焉(しゅうえん)と二大政党制の成立を予想した。ところが現在、自民党は再び圧倒的な優位に立っている。一体、なぜなのか。本書はこの関心に基づく日本政治の通史だ。
 その起点は、戦後改革に遡(さかのぼ)る。憲法9条は戦争放棄を定めたが、朝鮮戦争による再軍備と共に防衛政策との矛盾が生じた。1955年に成立した自民党は憲法改正を目指し、社会党は激しく抵抗する。
 だが、本書によれば「55年体制」が実質的に始まるのは1960年だ。自民党は憲法改正を棚上げして利益政治に舵(かじ)を切り、野党は社会党右派が離党して民社党を結成するなど多党化した。このため、自民党政権は政治腐敗を批判されながらも80年代まで安定する。
 この状況は、90年代からの「改革の時代」に激変した。選挙制度改革や行政改革が行われるなど、憲法に代わる争点が出現した結果、二大政党制化が進み、民主党政権も誕生した。
 しかし、第二次安倍政権の時代になると、憲法9条の解釈変更を巡って再びイデオロギー対立が激化する。その結果、野党の分裂が進み、自民党の優位が復活した。この状況を本書は「ネオ55年体制」と呼ぶ。
 簡潔な通史だが、その主張は強烈だ。社会党から立憲民主党に至る野党が旗印としてきた憲法9条こそが、野党を分裂させ、自民党を利してきた。これは、野党には耳の痛い指摘だろう。
 この本書が提示する力学の背後には、戦前と戦後の断絶がある。軍国主義が復活する懸念のあった50年代には、憲法問題は野党を結集させた。だが、その可能性は高度成長期に消滅する。戦前が遠のいたからこそ、憲法は野党を分裂させる争点となったのだ。
 だとすれば、今後の野党の運命は憲法とは異なる争点を新たに提起できるかどうかにかかっている。ネオ55年体制の超克は、この認識から始まるに違いない。
    ◇
さかいや・しろう 1978年、大阪生まれ。東京大教授。専門は日本政治論、政治過程論。著書に『憲法と世論』など。