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「東京史」書評 破壊と復興生きた人びとに着目

評者: 藤野裕子 / 朝⽇新聞掲載:2023年08月05日
東京史 七つのテーマで巨大都市を読み解く (ちくま新書) 著者:源川 真希 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480075529
発売⽇: 2023/05/11
サイズ: 18cm/279p

「東京史」 [著]源川真希

 現在1千万人以上が居住する巨大都市東京は、どのようにして出来上がったのか。印象的で魅力的なタイトルのとおり、150年にわたる東京の歴史が本書で一望できる。
 本書の特徴の一つは、首都・帝都としての歴史を、単純な発展史として描かないことだ。破壊と復興が繰り返されてきたことや、貧困などの都市問題が生み出されていたことに着目し、東京がそれらにどう対応したかを追う。
 明治維新後の都市計画からスタートし、地震と火災により甚大な被害が生じた100年前の関東大震災、10万人以上が死亡した東京大空襲などを取り上げ、そこからの復興プロセスを記す。東京の急速な拡大と表裏一体で、貧困者の集住するいわゆる「スラム」が形成され、スラムクリアランスや都市社会政策が展開したことを述べる。
 この視点は、都市を生きた人びとの生活や、個人の人生に着目するという、二つめの特徴につながる。明治時代のスラムにおける長屋の生活を描写した箇所や、昭和初年に現在の葛飾区に住んでいた小学生の作文から当時の暮らしぶりを描いたくだりは印象深い。
 三つめは、明治維新から始まる歴史書としては珍しく、2020年代にまで大胆に言及し、東京の現在地を可視化する点だ。バブル経済の崩壊によって東京が受けたダメージは大きかった。そこからの再生を目指し、石原慎太郎都政の頃から、都市行政は経営の論理を強めていった。この枠組みが現在まで続く一方、東京とそれ以外の地域格差、東京内での地域・階層間格差が拡大していると著者は指摘する。
 最新の研究を網羅し、独自の解釈を加えて私見を提示する。熟練した歴史学者ならではの筆運びが心地よい。ここにジェンダーの視点が加わると、巨大都市で少子化がいかに生まれ、東京がそれとどう向き合ったかという点からも、過去と現在を見通せそうだ。
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みながわ・まさき 1961年生まれ。東京都立大教授(日本近現代史)。著書に『首都改造』『東京市政』など。