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速水健朗さん「1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀」インタビュー 定型化した世代像に疑義

速水健朗さん

 『ラーメンと愛国』や共著『バンド臨終図巻』などで、都市の文化や消費社会を縦横に論じてきた。久しぶりの単著では、団塊ジュニア世代のピーク、今年50歳を迎える1973年生まれに焦点を当てた。

 「ある年に生まれ、ある時代を生きた特定の視点から定点観測するような『同世代史』を書こうと」

 自身、73年生まれ。記憶に残る出来事や暮らしの変化をなぞると、昭和後期から平成にかけてのメディアの転換期が浮き彫りになった。

 「80年代のロス疑惑はメディア主導の騒動のはしり。リクルート事件(88年)の背景には電電公社の民営化や情報産業の勃興があり、2000年代のライブドア事件は、一面では『世代交代の失敗』だった」

 といっても、歴史的事実やサブカルチャーを網羅した本ではない。地方出身の当事者の視点から、戦後史や平成史の「正史」で見過ごされがちな生活史をもう一つの軸にした。

 黒電話からスマホへ。コミュニケーションメディアの激変を体験する中で、「最も興奮したのは、ファクスや留守番電話、ポケベルではない。親を通さずに子機で友人や恋人と直接通話できるコードレスホンだった」。FM雑誌を手に「エアチェック」にいそしみ、CDでヒット曲を聴いた。「パソコンやコンビニ、ペットボトルの普及前がどうだったか、皆すっかり忘れている」

 親にあたる団塊世代はよく学生運動とともに語られる。団塊ジュニアもいわゆる就職氷河期世代やロスジェネと一部が重なり同一視されがちだが、どちらも不十分だと感じる。「定型化した世代像が見過ごしてしまうものは多い。団塊ジュニアを不遇で地味な存在と見るのは一面的では」。生活文化の豊かな断面を手がかりに、世代論に一石を投じる。(文・大内悟史 写真・小山幸佑)=朝日新聞2023年8月19日掲載