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「住みにごり」たかたけしさんインタビュー 外から見ると奇妙な部分、誰の実家(うち)にも

©たかたけし/小学館

38歳で一念奮起! デビュー2作目にして大ヒット

――たかたけしさんが漫画家を志したきっかけを教えてください。

 子どものころからお笑いが好きで、最初はお笑い芸人になりたかったんです。でも人前で何かをするのが苦手で。漫画も好きだったので、だんだんとギャグ漫画家になりたいと思い始めました。漫画を描き始めたのは20歳過ぎてからで、インターネットで知り合った友だちと同人誌を出すようになり、26歳で上京しました。

――東京は出版社が多いので投稿や持ち込みがしやすいと感じたからですか?

 それもあるし、実家を出て自立したいと考えていたからです。後にこの実家が『住みにごり』の考案につながって、主人公の末吉は自分を投影したキャラになりました。

『住みにごり』1巻より ©たかたけし/小学館

――末吉も一度実家を出ますよね。彼が帰ってきて悪夢を見るところから物語が始まる。そのあたりも同じですか?

 漫画は実家を題材にしつつもフィクションなので、ぼくは上京したまま暮らしていました。

 最初は漫画を描いて投稿して……と頑張っていたんですが、何の賞にもひっかからないし、持ち前の怠惰な性格もあって、だんだんと漫画を描かなくなり、コンビニで夜勤をするために上京しているみたいになりました。

 15年ほどブログで漫画を描いたり、インターネットを通してできた友だちと同人誌を作って同人誌即売会で売ったりしていました。作家の乗代雄介、こだま、爪切男と合同で同人誌を出したこともあります。ぼく以外、売れてましたね。

――たかさんも含めて凄い方ばかりですよ……。

 いやいや。

 乗代さんとは20年くらいの付き合いです。彼はブログに毎日短編小説を載せていて、それがぜんぶ面白くて、お互いのブログをよく見ていました。乗代さんとは年に1回「今年どうだった?」と会うぐらいでほとんど連絡も取っていません。昔なぜか一緒にアイススケートに行ったことはあるんですが、乗代さんが1周滑って戻ってきたら、両手に知らない子供2人と手をつないで仲良くなっていて驚いたことがあります。不思議な人です。

――漫画家デビューのきっかけは?

 ふと気づけば38歳になっていて「年齢的にもそろそろ漫画家になるために頑張らないと」と一念奮起して、「グランドジャンプ」(講談社)の「R30漫画賞」に応募したら佳作になりました。この賞は30代の漫画家を発掘する賞なので向いていたんだと思います。

 その後、漫画編集者と漫画家とのマッチングサイトに投稿しながら、出版社に持ち込みをしていると、編集さんから声がかかってデビュー作『契れないひと』(講談社)の連載が決まりました。『住みにごり』はデビューしてから2作目の漫画です。

左から、たかたけしさんのデビュー作『契れないひと(1)』(講談社)、2作目となる『住みにごり(1)』(小学館)

他人の実家の話を聞くのが好きだった

――『住みにごり』がヒットしたのも、今までの経験が大きかったのでは?

 経験もそうですが、以前から他の人の実家の話を聞くのが好きだったことも大きかったですね。どの家庭も、他と違う奇妙な部分があるので。例えば『住みにごり』では末吉の父親がイライラしたら垂直にジャンプをするんですけど、うちがそうでした。事実に近い部分や自分で考えた話を織り交ぜながら描いています。

――『住みにごり』の末吉の家族構成は、両親と長女の長月(なつき)、長男でニートのフミヤ、そして次男の末吉です。最初に末吉の名前が出てきたとき、「末っ子だからそんな名前!?」と驚きました。

 親が子供に名前を付けることに飽きてる感じですよね。

 長月はさっぱりとした性格の1番上の娘で、その次が無職で無口なフミヤです。主人公の末吉は、家族でいちばん客観的に物事を見ています。

 たとえば1巻で、家族で焼肉に行く場面があって、兄のフミヤが奇妙な格好で行くんです。みんなそれを受け入れているんだけど、末吉だけが冷静に兄を見て恥ずかしいと感じています。

『住みにごり』1巻より ©たかたけし/小学館

――末吉は読者の目線に近いキャラのように思えます。焼肉のシーンはそれぞれの個性が出ていて大好きなシーンのひとつでした。たかたけしさんならではの、ギャグとホラーが入り混じった雰囲気も醸し出されていて。

 『住みにごり』は、ネームの段階では完全なギャグ漫画のつもりでした。ただ編集さんに見せたら「不穏でいいね」って言われて。もともとギャグ漫画を描いていても「怖い、気持ち悪い」と言われることが多かったのもあると思います。『住みにごり』はそんな感じで、今のようにギャグもあって不穏さもあって……という内容になりました。

多様な側面を持ち合わせているのが人間

――作中で効果的に黒を使っていますよね。これもあえてですか?

 たんに実家って昼間も暗かったイメージなので……。閉塞感を出すために、極力絵やフキダシをコマから出さず窮屈にするとか多少は考えています。ただ人物に関して言うと、どのキャラに対しても特別奇妙な人とはあまり思っていません。

 怖いし、変だし、優しいし、多様な面が一人の人間の中にあると思うので。もしかしたら読んでいる人の中でも、怖い、変だと思いながらも何か感じるものがあるのかもしれないですね。

――奇妙なキャラを描くのが巧みだなと感じていたのですが、人間そのものが奇妙な存在なのかもしれないとお話を聞いていて考えさせられました。これまで描いた中で好きなシーンやキャラは?

 末吉たちの両親がお風呂でイチャイチャしてるシーンですね。実際に自分の両親がやっていて、昔はそんなところを絶対見せなかったのに年を重ねたらどうでもよくなるんだと感心しました。両親のいろんな感情も重なりあって良いシーンだなと気に入っています。読まされた方はどういう気持ちになればいいんだと思ったかもしれませんけど。

 キャラは父親とフミヤが好きです。描きやすいので。

『住みにごり』1巻より ©たかたけし/小学館

――逆に描くのが大変な箇所もあるのですか?

 ぼくは女性を描くのが苦手ですごく時間がかかるんです。だから、うまく描けたときはうれしいですね。

 本作で初めて編集さんから「実写寄りの絵で女性を描いてみたらどうですか?」と言われて、自分がかわいいと思っていたのが押見修造さんの漫画の女性だったので、参考にしました。

 今はそうでもないと思うのですが、特に最初の頃があまりに押見さんの絵に影響されすぎていたので、一度押見さんにお会いする機会があった時「真似してすみません」と謝ったら、喜んでくださったんで安心しました。

予想外の物語。でも、面白くなるはず

――女性といえば末吉たちの母親や長女の長月が頭に浮かびますが、末吉が恋をする森田の印象も鮮烈ですね。森田は家族の外にいる「他人」ですが、この物語の軸となる人物なのでしょうか?

 家族以外の他人との出会いで、良くも悪くも家族は変化すると思うんです。森田がいろいろと物語をかき乱すような感じになっていますけど、ぼくとしては、4巻は父親を中心に大変なことが起こるのがポイントなので、そこも楽しんでほしいですね。

『住みにごり』4巻より ©たかたけし/小学館

――これからどうなるのかわからない展開が続いていますが、結末は決めていますか?

 だいたいの結末を決めて連載を始めたんですが、だんだんと変わってきて。ぼくにとっても予想外のことなので、結末は今、自分が思っている内容とは違うものになるかもしれません。

――たかさんにとって『住みにごり』はどんな漫画ですか?

 人によって実家が好きとか嫌いとか、いろいろな思いがあるとは思うんですが、実家のことを考えるきっかけになる漫画かなと感じています。いま、最新の4巻から先の展開、つまり5巻に収録するエピソードを描いていて、だんだん面白くなっていると思います。たぶん(笑)。

 既に読んでくださっている方も初めて読む方も、期待して読み進めてもらえたらうれしいです。