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「ナショナリズムとナショナル・インディファレンス」書評 市井の人々の意図的な無関心とは

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2023年09月02日
ナショナリズムとナショナル・インディファレンス 近現代ヨーロッパにおける無関心・抵抗・受容 著者:金澤 周作 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784623094356
発売⽇: 2023/06/28
サイズ: 22cm/413p

「ナショナリズムとナショナル・インディファレンス」 [編著]マールテン・ヴァン=ヒンダーアハター、ジョン・フォックス

 政治エリートがナショナリズムを煽(あお)るのは万国共通だが、市井の人々は無関心であることも多い。それを、近年の英語圏の歴史学ではナショナル・インディファレンスと呼ぶ。本書は、この概念を日本に紹介するべく翻訳された論文集だ。
 各章の事例研究は、主に20世紀前半のヨーロッパにおける多民族地域の住民の姿を描く。そこでは、人々が日常的に複数言語を話し、民族を問う国勢調査の質問に「ここの出身」と回答したり、国境線の変更に応じてドイツ人からポーランド人に民族を乗り換えたりする。特定の言語や文化を植え付けるナショナリズムと意図的に距離を取るのは、戦争を生き延び、隣人と共存するための知恵だ。
 今日のウクライナ戦争では、東部地域を中心とするロシア語話者の住民は「親露派」だと見なされやすい。だが、単にどちらの陣営とも関わりたくないだけの人も少なくないだろう。それを忘れないためにも、ぜひ本書の視点を生かしたい。