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映画「沈黙の艦隊」主演・大沢たかおさんインタビュー 30年前の人気漫画「今、この作品だという思い」

大沢たかおさん=篠塚ようこ撮影

30年前とは価値観が違ってきた

――約30年前に連載されていた原作を、令和の時代に実写化したいと考えるようになったのは、どんなことがきっかけだったのですか。

 僕が原作を読んでいた頃は、若かったせいか「漫画じゃないような話だな、すごいな」という印象で、当時はまさか自分が役者になるとは思っていなかったから、一読者として興味を持って読んでいました。それが数年ほど前、ある作品で一緒だったプロデューサーさんといろいろな話をしている中で「この作品、面白いですよね」という流れから映画化の話が始まったんです。

 自分の感覚的に言うと「今、この作品だ」という思いがありました。当時はまだロシアのウクライナ侵攻が始まっていなかったけれど、世界が不穏な空気になりつつあった。そういう中で、もしこの作品の映画化が実現したら、とてもインパクトの強いエンターテインメント作品になるんじゃないかなと思ったんです。ただ、自分たちがどんなにやりたいと思っても、これほどの大規模な作品となると日本の通常の作り方では予算に到底収まらない。そこにAmazonスタジオが賛同して、アメリカサイドも作品を「面白い」と言ってくれて、大作を作るだけのバジェットを組める可能性が出てきたんです。

ヘアメイク:松本あきお(beautiful ambition)、スタイリング:黒田領

――実写化にあたって、乗り越えなければいけなかったことはどんなことでしたか?

 原作が描かれた30年前と今では、人々の価値観や感覚がすごく変わってきたと思うんです。なので、どう今の時代に合うように作るかが、映画化する上ですごく大事なことであり、難しいポイントでした。それに、この作品をやれば核や原子力潜水艦の問題といったタブーに触れることになるし、ある程度、日本の防衛省と海上自衛隊の協力がないと成立しないんです。もし防衛省が映画に協力している場合じゃなくなった時は、僕らも撮影をしている場合じゃないので、有事がないという前提でした。

 撮影中にウクライナ侵攻が始まったので不安もありましたが、こういう状況の中で、見てくれたお客さんが「迫力があってすごい!」だけで終わる話じゃないんだと思ってくれる可能性があるなら、我々にとってはこの作品を作る一つのポテンシャルになる。そこを信じながら、いろいろな偶然が重なりあってここまでたどり着いたという感じです。

優秀であるが故に危機を感じていた

――海江田四郎をどんな人物と解釈されましたか。

 海上自衛隊きっての優秀な人間で、隊の最前線にいるということが前提としてあるけれど、優秀が故に、きっと彼は何らかの危機を感じていたのでしょう。その問題を解決するために、ある種のテロリストと化していったというのが基本的な彼の行動原理だと思います。

――演じてみて気づいたことはありましたか。

 海江田は常に頭がフル回転しているんだけど、全く動かないので何を考えているのか分からないんですよ。でも僕が想像するに、こんなに疲れることがあるかなというくらい考えなきゃいけないことが多い役なんです。なぜなら、潜水艦の中では視覚が遮られているから敵も見えないし、深いところまで潜ってしまえば誰とも連絡が取れない。

(C)かわぐちかいじ/講談社  (C)2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

 そんな状態の中で、アメリカ軍や日本政府相手に、自分たちを追ってくるであろう人間たちを、詰将棋をするように頭の中で移動して、彼らをどんどん巻き込んでいくんです。大切なのはその順序を間違えてはいけないことで、少しずつ巻き込むことで、最終的に日本政府をどう対応させるか、その最善策を彼はいちいち選択しながら進んでいるんですよ。だから常にものすごくいろいろなことを考えていたと思います。

――海江田は多くは語らず、後ろ姿で物語っているように感じる場面が何度もありましたが、いつも「休め」のポーズをとっているのは何か理由があるのでしょうか?

 乗組員にとって艦長の存在は絶大で、実際に海自の方にうかがった話では「海に潜ったらこの人に命を預けている」と思っていて、艦長の表情からいろいろなことを汲み取るそうです。なので、その人が不安な顔をしたり、ちょっとでもぶれていると感じたりしたら「この船、危ないかも」と思ってしまう。海江田は艦長としてみんなを統率しなくてはいけないので、後ろに手を置くことは「絶対に自分は動じてはいけない」という心理的な意味合いがあるのかもしれません。

 それに彼はクラシックが好きで、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」を響かせながら全速潜航するシーンでは、指でリズムを取ることがあるんです。もしかしたらみんなの見えないところでリズムをとっている時もあるかもしれないし、あえてみんなが見えるところでリズムをとる時もあるので、自分なりの使い分けをしているのかもしれないです。

「同じ立場で対話したい」

――武力を行使してやり合うシーンも多いですが、その中でも「対話」の重要性を描いているように感じました。

 海江田もテロリストではあるけど、やりたいことは「同じ立場でちゃんと対話をしたい」ということなんです。だけど、それぞれの立場や忖度があるから、対話をすることってなかなか難しい。どうすれば上や下の関係性がなくなるのか、対話の舞台に上がるにはどうしたらいいかということを考えた結果、かなり乱暴だけどその方法として核を利用したわけですよね。

――海江田は「独立戦闘国家・やまと」を宣言し、所有する核ミサイルを抑止力として世界平和の実現を目指します。

 今の世界って実は異様じゃないですか。国連安保理の常任理事国はどこも核を持っていて、そういう国が常任理事国になっていること自体、本当はおかしいのだけど、結局彼らがコントロールしている事実だけが世にまかり通っているということを海江田は知った。非核三原則があるから自分たちが核を持つのは難しいけど、対等に対話はしたい。でもこの国にいては日米安保条約があるから絶対にフェアじゃない。そんな中で、たまたまアメリカの原潜に乗れるという機会を得たことで、乱暴だけどこれは人生に一度のチャンスだと思ったのか、彼は大博打に出て行ったんだと思います。

――対等に対話をするためには武力が必要で、そのために海江田もこれだけ極端な手段に出なければならないのでしょうか。切ないですね。

 そう。実は切ない世の中で、残念ながら人間はいつまでたっても争っていて、戦争は終わらない、現実的な問題ですよ。日本人は安全で平和な国にいるから、昨今、変な空気が周りに漂っていても、あまり見たくないし聞きたくない。報道も見て見ぬふりをしたりしてね。そんな切ない中で、彼は真正面から一擲乾坤を賭した。恐らく最後は戦犯として捕まるか、暗殺されるだろうという自分の未来や、乗組員が捕まってしまうことも想定していたでしょう。それでも彼は、自分の人生の中で、一か八かの勝負に出たんじゃないかなと思います。

――歴史を遡れば、昔から「世界平和」を求めているのに戦争がなくならず、いつまでも同じことが繰り返されている中で、今この作品を世に送り出す意義をどうお考えでしょうか。

 今、世界がひとつの大きなターニングポイントに差し掛かっているのは、多分間違いないでしょう。インターネットの普及により世界がどんどん小さくなって、情報過多になったことによる問題がまた起きている中で、今までみたいな価値観だけでは次の世代にバトンタッチするのは難しいのではないかと個人的に思っています。

 俳優としてというよりも、この時代に生きる者として、何らかの大きな変革みたいなものが今後訪れるのではないかと思っていたところに、この原作を映画化するという話が来た。この映画は「僕たちで作って今の世の中に出そうよ」というよりも、30年前に描かれた原作から「映画化していいよ」というメッセージが降りてきて、それに動かされて作っていたような感じがしました。

この国で何が起きたのか知りたくて

――これまで数々の原作実写化に出演されていますが、普段はどんなジャンルの本を読みますか?

 実用書のベストセラーはほぼ読んでいます。本屋さんに行くと、大体その年のベスト10が並んでいるでしょう。おじさんたちは大体そこにいるんですよ(笑)。気になって見てみたら、どれもタイトルが現実的だし、内容も意外と面白いことを知りました。ほかに歴史書や経済書なども読みます。その分野で自分に確固たる師匠がいなかったので、本から学ぶしかなかったんですよね。特に歴史は本を読めば読むほど難しいなと思います。

 あとは、数年前に読んだ『國破れてマッカーサー』も面白かったです。著者の西鋭夫さんが、色々な資料を元に、戦中戦後の日本とマッカーサーやGHQとの間に一体何が起きたのかということを、ある程度赤裸々に書いているんです。自分がその研究書類を見たわけではないので、そこに書かれていることが事実かどうかは分からないけど、読み応えがあっていろいろと考えさせられました。

――歴史についても造詣がおありですが、今気になっている時代や出来事はありますか?

 歴史ってどんどん塗り替えられていくじゃないですか。それに、どんな本を読んでも結局は書いた人の目線でしかない。それが悔しいので、僕は知り合いの言語学者から歴史についての話を教えてもらうんです。それも結局は想像の域を出ないけど、言語の分野から謎解きしてみるのも面白いですよ。あと、中国の歴史書は哲学に近いのですごく勉強になりました。

――俳優として海外の作品に出演するほか、プライベートでも多くの国に旅をされていますが、海外で感じたことはありますか?

 以前、浅田次郎さん原作の「地下鉄に乗って」という映画に出演した時に、一人で中国の黒龍江省を回ってみたんですよ。中国語は全然分からないから通訳してくれる人をお願いしたら、その人が日本の戦争責任のことなどをすごく責めてきたんです。それでケンカになって別の人と一緒に回ったんだけど、現地を回ってみると、当時満州にいた日本人が終戦前後、ソ連に略奪や虐殺の被害に遭っていたことなどを知りました。そういうことを、あまり日本では伝えていないでしょう。南京大虐殺のことも触れちゃいけない話題みたいになっていて、自分の中でずっと “もわん”としていたことが、実際にその国を歩いてみると気づくことがたくさんあるなと思いました。

――どちらの国の立場かによって、戦争の伝え方も違ってきますよね。

 「勝てば官軍負ければ賊軍」じゃないけど、勝った方の論理で歴史は伝えられていきますからね。それに、歴史についてちゃんと触れて、伝えている教科書がないじゃないですか。一体この国で何が起きたのか、その答えを知りたくて、僕は本を頼りにしているのかもしれないです。