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光を当てると浮かびあがるのは…… 小松原宏子さん翻訳の「みえた! きょうりゅうのせかい」

世界的ベストセラーの知識絵本

——恐竜がいたころの世界って、どんなものだったのだろう? ページの裏から光を当ててみると、迫力ある恐竜の姿が浮かびあがって……。小松原宏子さんが翻訳を手がける「ひかりではっけん」シリーズ(くもん出版)は、イギリス発・全世界で累計620万部を超える知識絵本のベストセラー。日本語版シリーズ3作目の『みえた! きょうりゅうのせかい』(同)は、恐竜が生きていた世界をテーマに、絶滅した恐竜と古生物たちの姿がいきいきと描き出される。

 「ひかりではっけん」シリーズとの出合いは本当に偶然でした。執筆・翻訳の傍ら私立の女子校で英語を教えてもいるのですが、同僚だったアメリカ人講師が帰国したあともSNSでやり取りをしていたんですね。彼女から、Facebookのグループで動画を見る「ウォッチパーティー」に招待されたのですが、それがたまたま絵本や児童書の紹介動画を見て、絵本をオーダーする会だったんです。

 「ひかりではっけん」シリーズを見てすぐに「これは面白い!」と思いました。裏から光を当てると、表ページに絵が浮かびあがります。しかも、特別な紙に印刷されているというわけではなく、ただカラーのページの裏が白黒になっている、という、いたって単純なつくりです。まさに「コロンブスのたまご」のアイデアだと思いました。絵本のテーマも、人体のなか、ジャングルの生きもの、海辺に住む生物、恐竜……など様々。日本の子どもたちにもぜひ紹介したいと思い、シリーズを翻訳する企画を出版社に持ち込みました。

その他の「ひかりではっけん」シリーズ

子どもの「知りたい!」欲が満たされる

——「くびの なかは どうなっていたのかな?」といった問いかけに対し、ページをめくれば「くびの ほねは こんなふうになっているよ。」と答えが分かる構成。すべてのページをQ&Aで展開していく流れも、子どもたちの好奇心を刺激する。

 「光を当てると絵が浮かびあがる」という仕掛けのユニークさだけでなく、子どもたちの「知りたい!」という思いに答えてくれる構成も、このシリーズのいいところです。読み聞かせをするときは、すぐにページをめくらず、「どんな恐竜や生き物が隠れているのかな?」と、親子で考えると、もっと楽しくなると思います。そして、ライトを照らして「ひかりではっけん」してから答え合わせをしたら、盛り上がること間違いなしです。たとえライトがなくても、「なんだろうね?」と一緒に考えながらページをめくっていくだけで、知的好奇心が満たされるはずです。

 また、「ティラノサウルスは羽毛で覆われていたかもしれない」「始祖鳥は鳥類の直接の祖先ではないかも」といった、最新の学説に基づいた興味深い内容も盛り込まれています。とはいえ、それぞれの恐竜が本当はどんな姿かたちをしていたのかは、誰にも分からない永遠の謎ですよね。この絵本に書いてある文章もいつか、覆されるかもしれません。でも、そのことも含めて楽しんでもらいたいと思います。いつか新説が現れたとしても、「そうだったんだ!」という驚きを味わえることでしょう。

 このシリーズはそれぞれの分野の専門家に監修していただいていますが、私自身のリサーチにも、毎回かなりの時間をかけています。『みえた! きょうりゅうのせかい』では、福井県立恐竜博物館や北海道の足寄動物化石博物館にも足を運びました。当初はほとんど知識のなかった私ですが、絵本が出版されるころにはなかなかの“恐竜好き”に(笑)。シリーズの巻末に必ずある補足の解説も、読みごたえがあるので、ぜひじっくりと読んでみてください。

「オールひらがな」の翻訳に苦心

——「小さな子どもたちにも、生物や科学の面白さを感じてもらいたい」と日本語版はすべてひらがなに。「漢字を使わない」という制約のなか、専門用語や科学的な言い回しの翻訳には頭を痛めた。

 児童書の翻訳には携わっていましたが、絵本の翻訳はこのシリーズが初めてでした。未就学でも読めるようにするため、ほぼすべての文章をひらがなで書くのですが、それゆえの苦労がたくさんありました。

 日本語には同音異義語が多いので、たとえば、「は」とひらがなで書いたとしても、それが「歯」なのか「葉」なのか分からない。また、「けつえき(血液)」だと難しいだろうか、「ち(血)」だと一文字なので分かりづらいだろうか、など、いろいろ悩むところがありました。  

 読みづらそうなところはスペースを入れたり、一文字の単語には傍点を入れたり、言い換えてみたりと、編集者と何度もやり取りしながら試行錯誤をくりかえしました。

『みえた! きょうりゅうのせかい』(くもん出版)より ©2018 Quarto Publishing plc

 さらに難しいのは、「専門用語をなるべく正確に伝える」ことと「小さな子どもにも分かりやすく伝える」ことの両立。ステゴサウルスの背中にある“plate”をどのように訳したらいいか悩み、福井県立恐竜博物館へ。展示の解説などが非常に参考になりました。“plate”をそのまま訳すと「骨板」なんですがひらがなで「こつばん」だと分かりづらいですよね。原文の“The plates along the adult’s back”のところは、日本語版では、「おとなも こどもも せなかに たくさんの いたが あるね。/これは ほねの いちぶなんだよ。」と、解説を添えながら表現しました。

絵本の世界を大人も一緒に楽しんで

——東京・練馬区の自宅では、地域の親子が自由に本を借りられる家庭文庫「ロールパン文庫」を主宰。絵本から児童書まで様々な本を取りそろえるが、「ひかりではっけん」シリーズも子どもたちに人気だという。

 ライトを当てると絵が浮かぶ仕掛けに興味を惹かれ、ロールパン文庫で借りたことをきっかけに、絵本を購入してくれた子もたくさんいます。

 家庭文庫を開いたきっかけは、自宅で運営する公文式の教室に通ってくる子どもたちが、並べておいた本を楽しそうに読んでいるのを見たことでした。「今の子だって、面白い本ならこんなに夢中になって読むんだ」という、うれしい発見があり、それならば、なるべくたくさんの子どもたちに、様々な本と出合ってもらいたいと思ったのです。

 親がいくら「本好きになってほしい」と思っても、子ども自身が「読書って楽しい!」と実感できなければ何にもなりません。大人ができることは、子どもたちがいろいろな本に触れるきっかけをつくったり、一緒に読書を思いっきり楽しんだりすることだと思うんです。この絵本は、小さな子はもちろん、小学生になっても、大人と一緒に楽しめるところがポイント。恐竜という過去の、そして未知の世界を、親子でワクワクしながら読んでほしいと思います。