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逢坂冬馬さん「歌われなかった海賊へ」 ナチの悪行に立ち向かった無名の少年少女たち

逢坂冬馬さん

 第2次大戦下のドイツで、ナチ体制にたてついた少年少女がいた。そんな史実に着想を得た逢坂冬馬さんの小説「歌われなかった海賊へ」(早川書房)が刊行された。本屋大賞を受けたデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」以来2年ぶりとなる新刊は、現代日本に生きる読み手に大きな問いを投げかける。

 1944年夏、ドイツの片田舎。父親を密告により処刑された16歳のヴェルナーはエーデルヴァイス海賊団を名乗るレオとフリーデに出会う。名士の息子と将校の娘でありながらナチ体制に反抗する2人は、海賊団にヴェルナーを誘う。

 当時の若者は、唯一の青少年組織ヒトラー・ユーゲントへの参加を義務づけられていた。その統制に反発し、自然発生的に現れたのが海賊団。反戦ビラをまいたり、ユーゲントに戦いを仕掛けたり、各地でてんでんばらばらに活動した。

 「政治や宗教といった背景がなく、周りからみれば不良に近い存在です。ヒトラー暗殺を計画した国防軍幹部のような歴史に残る存在ではなく、どこの町にもいただろう少年少女が、なぜナチに反発するに至り、どう行動したかに興味を持った」

 「自由に生きる」を掲げて、3人は爆弾オタクのドクトルを仲間に加え、勝手気ままにふるまう。やがて年が明け、町に鉄道が敷設される。終点駅のはずなのに延伸されているレールに不審を抱いた海賊団は線路をたどる。その果てにあったのは「究極の悪」といえる施設だった。4人は町の人々に施設の存在を知らしめようとするが……。

 「前作は女性ばかりの狙撃小隊の話で、市民生活を書く余地があまりなかった。普通の市民として戦争という悪に対抗する人、善良に生きていたのに結果的に虐殺や戦争犯罪に加担してしまった人、両方を描いたとき、前作とは違った戦争の側面が書けるのではないかと思ったんです」

 異臭を発した貨物列車が時折、線路を通り過ぎていく。見えているはずのものを市民たちは見ようとせず、逆に「不良たち」の行動をいさめる。物語が進むにつれ、恵まれた境遇のレオとフリーデそれぞれが抱える秘密も明らかになり、ユダヤ人迫害にとどまらないナチの悪行を浮かび上がらせる。戦争末期の重苦しい空気は、前作の戦場描写とはまた違った臨場感にあふれ、読み手を町の一員であるかのような気分にいざなう。

 「巨悪が成立したとき、直接関わっていた人物はほんの少数かもしれない。でも周辺には同心円状に無責任の輪のようなものが広がっていて、結果的に巨悪は見過ごされる。利害関係によって巨悪を見過ごす行為が今も続いていないかどうか、考えてもらえたら本望です」(野波健祐)=朝日新聞2023年10月18日掲載