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「世界を翔ける翼」書評 地球規模の移動を観察し保護へ

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2023年11月04日
世界を翔ける翼 渡り鳥の壮大な旅 著者:スコット・ワイデンソール 出版社:化学同人 ジャンル:動物学

ISBN: 9784759820980
発売⽇: 2023/08/29
サイズ: 20cm/439p

「世界を翔ける翼」 [著]スコット・ワイデンソール

 そろそろ冬鳥飛来の季節だ。これら渡り鳥はどのような経路で日本までやってきているのだろう。その追跡は実は容易ではない。
 渡り鳥には毎年地球の直径(約1万3千キロ)を超える距離を移動するものがいる。しかし、いつ、どこに何羽飛来といった情報を記録する定点観測や一部の鳥に付けた標識の追跡では、長距離の連続観察は難しい。
 わずか30グラムほどの渡り鳥に重い装置は付けられない。その状況を変えたのが、安価で軽量の記録装置の登場である。これまで困難だった渡り途中の追跡が可能になった。それがもたらした驚きの一つがアマツバメの飛翔(ひしょう)だ。ヨーロッパとアフリカを行き来するシロハラアマツバメは6カ月以上、ヨーロッパアマツバメに至っては10カ月もの間、全く着陸をせずに飛び続けていた。何という能力!
 近年の環境センサーの高精度化は鳥の観測にも役立つ。例えばドップラーレーダー。雨と雹(ひょう)を区別できるだけでなく渡り鳥も記録できるのだ。また、ビッグデータの活用も進む。eBirdというサイトでは巨大データベースを構築。世界中の野鳥観察者による記録が投稿され、その数は年間約6億にのぼる。
 著者は長く鳥の渡りを研究してきた鳥類学者。本書で、渡り鳥の行動はまさに地球規模なのだという事実を我々に突きつける。繁殖地はもとより、中継地点の保全に失敗すれば、その後の渡りは難しくなる。保護を目指すには数千、数万キロスケールで物事を考えなくてはならない。
 一方、渡り鳥の存在はすでに地域に根差した暮らしの一部になっている。密猟、森林伐採、干潟の消滅。渡り鳥を守るには政府レベルでの協議と共に、その土地でこれからも生活していく人々への働きかけが必須だ。地球規模の自然を映す手のひらサイズの鳥の行動。それはグローバルに、ローカルな活動が実ることで初めて守られる。
    ◇
Scott Weidensaul アメリカのネイチャーライター、鳥類学者。渡り鳥を専門に世界各地を調査している。