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「インフルエンサーのママを告発します」ジェ・ソンウンさんインタビュー 我が子の写真、無断シェアしてませんか?

「シェアレンティング」に注意

――この本を書いたきっかけは?

 私も以前、SNSに娘の写真をアップしていたのですが、娘が小学5、6年生になった頃に「私の写真をアプリから消してほしい」と言ってきたんです。最初は理解できませんでした。「かわいいのに、なんで?」「じゃあ、私は何をアップすればいいの?」って。母親になると子どもの写真ばかり撮るようになるので、自分の写真ってないんですよね。でも私が自分のSNSにアップしていた写真は、確かに子どもの写真であって、自分の写真ではない。そんな当たり前のことに気づいたのがひとつのきっかけになりました。

 また、自分の意思とは関係なくYouTuberになる“キッズYouTuber”をテーマにした書きかけの短編があったので、この物語も“シェアレンティング”というテーマにつながるかもしれないと思ったんです。そこに当時よく話題に上るようになっていた“インフルエンサー”を加えて、物語を作りました。

『インフルエンサーのママを告発します』より。絵チャ・サンミ

――執筆に当たって何か準備はされましたか。

 私自身がシェアレンティングについてよく知らなかったので、まずは子どもの人権保護団体が主催するメディア教育プログラムを受講しました。そこで「親がアップする子どもの写真は12歳になるまでに平均1000枚以上にもなる」という事実を知ったんです。当時、私はまだインスタグラムを使っていなかったので、実際に登録してみて、インフルエンサーがよく使う言葉やハッシュタグ、投稿の内容などをチェックしました。当時から検索すると、本当にたくさんのママインスタグラマーが出てきましたが、今は以前よりさらに増えている印象です。特に未就学児のお母さん方が多かったです。

インフルエンサー=悪ではなく

――インフルエンサーではなく一般の人の場合、親が子どもの写真をSNSにアップすることについて、韓国ではどのように考えている人が多いですか。

 私が下調べをした当時は、子どもの顔だけでなく、表彰状や成績表が、学校名やクラス、名前まで入ったままネット上にアップされているケースがありました。最近は、小学生以上の子に関しては、以前に比べて個人情報が伏せられているように思います。大多数の親たちは、子どもが成長するにつれて、子どもの写真をSNSにアップすることに慎重になるようです。子どもの個人情報流出や自己決定権、肖像権の侵害などに敏感になるのではないでしょうか。

――物語を書くに当たって気をつけたことは?

 一番心配していたのは、子どもたちがこの本を読んだ時に、“インフルエンサー=悪い人”と思ってしまうことでした。だからダルムの母親であるリナビがインフルエンサーになった理由もきちんと説明して、リナビを悪い人に書き過ぎないよう気を付けました。その一方で、“子どもが母親を告発する”という内容については、逆に「そこまでしなきゃいけない?」と思われる可能性もあると思ったので、ダルムがそうするに至った経緯も丁寧に描くようにして、物語の全体のバランスを取るようにしました。

『インフルエンサーのママを告発します』より。絵チャ・サンミ

――物語の中ではアラという少し大人びた友達が、主人公のダルムに正しい情報を教えたり、彼女を導いたりする役割を果たしていますが、子どもには少々難しい問題を物語で表現するに当たって苦労したことは?

 アラというキャラクターは、どう描くべきか本当に悩みました。「あんな小学生が本当にいるだろうか?」とも思ってしまって。ただ、私は他の自分の本を題材に、小学校で出前授業をすることがあるのですが、そこで子どもたちに「こんな状況になったら、みんなはどうする?」と聞くと、みんな正しい行動が何であるかをちゃんと知っているんです。だから、「本やメディアを通して、何が正しいことなのか分かっている子なら、アラのように行動することもできるはずだ」と考えました。

 アラは他の子に流されず、周囲に善良な影響力を与えられる存在です。多少理想的過ぎる気もしましたが、子どもたちが本を読んだ時に「自分もアラのように行動したい」と思ってくれたらいいなと思っています。

「子どもは親の所有物ではない」

――タイトルに“告発”という少し強い表現を使った理由は?

 そこも非常に悩みました。ただ、この物語を思いついた時から、なぜかこのタイトルでないといけない気がしていたんです。出版社からNGを出されるかもしれないとも思いましたが、編集者からも「これ以上のタイトルはない」と言ってもらえて。それでも発売後には「インフルエンサーに不買運動でもされたらどうしよう」と心配でたまりませんでした(苦笑)。でも、お母さん方からは「タイトルを見て、ドキッとした」という声を聞きましたし、思春期に差しかかった年頃の子たちからは逆に「(「ママを告発する」という表現が)痛快だった」と言ってもらえました。

――他に読者の声で印象に残っているものは?

 韓国ではこの本が、大手教育業者の小学5年生向けの論述教材として取り上げられたので、親と一緒に読んだ子が多かったようです。この本を通して“シェアレンティング”という概念を初めて知った方も多く、「この本がきっかけで、家族の中でSNSのルールを決めた」といった話を聞いた時はうれしかったです。知り合いの編集者からは「今の時代に必要な本を書いたね」と言ってもらえました。ただ、ある時「この本を読んだ」という読者のレビューに、お子さんの写真が使われているのを目にしてしまって。その時は思わず苦笑してしまいました。

――その一方で「かわいい自分の子どもを人にも見てほしい」という気持ちで、子どもの写真をSNSにアップする親の心理も理解はできます。

 私も以前はそういう母親だったので、他人事とは思えません。幼い頃の娘の写真を見るとやっぱりかわいいので、自慢したい気持ちにもなります。ただ、このことに限らず、子どもは成長するにつれて自己主張をするようになるので、親は子どもの意思を尊重せざるを得なくなりますよね。

 中には「小さい頃、あんなにかわいかった子が、なんでこんなに生意気になっちゃったんだ…」と嘆く人もいますが、私自身「これも自立の第一歩なんだ」と思うようにしていました。「子どもは私の所有物ではなく、一人の人間であり、尊重しなければならない」ということを、わりと早いうちから意識していた気がします。私の場合、以前アップしていた娘の写真は公開範囲を変更して非公開にし、大切な思い出として私だけが見られるようにしています。

放送作家の経験が糧に

――社会的な問題をテーマにした多くの児童文学を執筆していらっしゃいます。以前は放送作家だったそうですが、その時の経験が生きているのでしょうか。

 そう感じています。放送作家をしていた時は、ニュースからドキュメンタリーまで、多種多様な番組の企画を書いていました。当時は週1回の放送のために、番組になりそうなネタを探すのが習慣になっていたので、それがいい訓練になっていたようです。その後、転職して今度はドラマの企画案を作る仕事をしていたのですが、「なぜこの話をドラマ化するべきなのか」「どうすれば起承転結をつけて、物語を面白く展開させられるか」をつねに考えながら企画を書いていました。

――児童文学作家になったきっかけは?

 結婚後は論述教材を作る会社に勤めていました。そして出産後にはアニメ制作会社で働いていたのですが、子どもの預け先がなくて1年で辞めてしまったんです。その会社の上司に、「3歳くらいの子どもたちに生活習慣を教える全20巻の絵本を書いてみないか」と提案されて。その時、初めて子ども向けの物語を書いたのですが、ものすごく楽しかったんです。当時ちょうど3歳だった娘が「これ読んで」と、私の書いた絵本を何度も繰り返し持ってきてくれるのがうれしくて。「この仕事は私に合ってるかも」と思うようになりました。ネット上で投稿した物語を講評し合う同好会に入り、そこで勉強を始めて間もない頃に新人文学賞を頂いて。「これなら作家としてやっていけそうだ」と思ったのですが、その後5年間はなかなか芽が出ませんでした。

――本格的に作家デビューしたのはいつでしたか。

 夫の駐在に伴ってバンコクに住んでいたのですが、現地では当時8歳だった娘が読む本がなくて。同じ本ばかり読んでいても飽きてしまうので、「それなら私が書いてみよう」と思ったんです。娘が学校に行っている間に一生懸命書いて、帰ってくると読んであげていました。そしたら「面白い! この続きを書いて」と娘が言ってくれて。帰国後に、その時に書いた物語を出版社に送ったら、すぐに連絡が来て、2017年にようやく自分の本が出せました。

――好きな日本の作家や作品は?

 今、子どもたちに人気のある作品は読むようにしています。最近は韓国でもたくさん出ている(『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の)廣嶋玲子さんの作品を少しずつ読んでいます。それから、たかどのほうこさんの『紳士とオバケ氏』も大好きな一冊です。

 また、私は言葉のリズム感を大事にしていて、子どものための詩を習っていたこともあるのですが、そこで紹介された『私と小鳥と鈴と』の金子みすゞの詩も好きです。読後に切なさが残るような作品が好みですね。私は、読んでいて切なくなるような物語を書くのも好きなんです。絵本では、いくつかそういう作品も書いています。

――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

 本作は最初、台湾で翻訳されたのですが、本として出版されたのは日本が初めてです。日本の読者の方がどんなふうに読んでくださるのか、期待と緊張が半々でしたが、こうして私の本が外国で読まれ、共感していただけているのが、とてもうれしく、励みになります。もし機会があれば、他の私の本も翻訳されて日本の方に読んでいただけたら、うれしいです。