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清野とおる「スペアタウン」インタビュー 「赤羽」の代わりを探す旅

清野とおるさん

 慣れ親しんだ街に住めなくなったら、どこに住む? そんな思いで描いたエッセー漫画だ。

 ドラマ化された『東京都北区赤羽』を代表作に持つ作者としては、そんな「もしも」が起きたら一大事。約20年住み続ける赤羽は「これからどんな作品を描くとしても、軸になる。一生この街で暮らしたい」といい、世田谷区在住の、あの「妻」とも別居婚を続けているほど思い入れが強い。しかし、天変地異や自然災害、近隣住民のモンスター化、ストーカーやDV被害、身に覚えのない突然の村八分、失火による火事などに見舞われたら……そんな妄想に追い立てられて、「スペア」の街を見つける旅に出る。

 本作で訪れたのは、都内の多摩センターと蒲田、池袋。そして静岡の熱海と愛知の豊橋だった。居酒屋や特色のある銭湯・サウナなど「その街ならでは」の店や施設を紹介しながら、チェーン店の「サイゼリヤ」にも立ち寄る(今回取材場所に指定されたのも赤羽の「ジョナサン」だった)。熱海の喫茶店で他人の悪口で盛り上がる女性たち、池袋のなじみの店の常連で友人になった男性、強烈な個性を放った店の主(あるじ)など、登場人物の人間性の描き方も巧妙だ。

 作品の舞台となる街を選ぶ基準は「動物的な勘」。赤羽と似た雰囲気の蒲田にはシンパシーを抱きつつ、「(都内の)新小岩や(兵庫県の)尼崎は、なぜか合わなかった」。

 作品はメンズファッション誌「UOMO」のデジタル版で連載されている。今後取り上げる街は?と問うと「まずは大阪の西成」。ドヤ街、昼間から営業している飲み屋……身を置くと自分が何者でもなくなる感覚になるといい、「僕の中で特別な街。もし仕事も妻も、全てを失ったら、西成に住んで人生をリセットするんだって決めているのです」。(文・後藤洋平 写真・山本佳代子)=朝日新聞2023年11月18日掲載