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中国との「距離感」に焦点を当て複雑な戦後史を描く「台湾のアイデンティティ」 高谷幸が選ぶ新書2点

『台湾のアイデンティティ 「中国」との相克の戦後史』

 コロナ下での市民への説明責任の重視、同性婚の合法化、原住民の権利保障。近年の台湾は「多様性を尊重する民主的な社会」としてしばしば語られる。同時に、日本では「親日」のイメージも強く、そこに中国への対抗的な視線が内包されている場合もある。家永真幸『台湾のアイデンティティ 「中国」との相克の戦後史』(文春新書・1210円)は、そうした他者を単純化するまなざしに釘をさしつつ、台湾の複雑な戦後史を中国との「距離感」に焦点を当てて描く。抑圧的な政治体制を転換し、民主的な社会を創り上げてきた隣人たちの歴史と現在への理解を誘う一冊だ。
★家永真幸著、文春新書・1210円

『情報公開が社会を変える 調査報道記者の公文書道』

 民主主義は日々のメンテナンスが必要である。その具体的な手法を教えてくれるのが日野行介『情報公開が社会を変える 調査報道記者の公文書道』(ちくま新書・968円)だ。原発問題などを取材してきた著者は、不透明で理不尽な行政の決定が市民生活を翻弄(ほんろう)する例をみてきた。そうした状況に対し、市民が使える技術として、公文書の情報公開を求め、行政の意思決定過程を知る手がかりとする「公文書道」を説く。結局のところ、民主主義のメンテナンスは、市民一人ひとりの手にかかっている。「公文書道」はそのための、地道だが、強力なツールである。
★日野行介著、ちくま新書・968円=朝日新聞2023年12月9日掲載