1. HOME
  2. コラム
  3. BLことはじめ
  4. BL担当書店員が選ぶ「マイベストBL 2023」

BL担当書店員が選ぶ「マイベストBL 2023」

演技か本心か。2度読み推奨(井上將利)

 早いもので今年もマイベストの季節がやってまいりました! 毎回頭を悩ますこのテーマですが、今年も例によって印象的な作品が沢山ありましたので苦労しました……。本当は5作品くらい「マイベスト!」って言いたいところですが、その中で1冊を選ぶならば芹澤知さんの「ホワイトライアー」(オーバーラップ)をご紹介したく!

【あらすじ】
28歳、美容師として働く慧は、過去の恋愛のせいで人間不信ぎみ。
長らく本気の恋から遠ざかり“遊び相手<オトモダチ>”とその場の熱を分け合ってきた。
ある日、仕事で超人気俳優・大河を担当することに。
不愛想に見えた大河だったが、カットが終わると人懐っこく豹変して――?
「慧の匂い、落ち着く」
急に近づく距離感、熱っぽく呼ばれた名前。流されるまま関係を持ってしまう。
これまでの“オトモダチ”とは違う大事そうに見つめる視線も触り方も、芝居だったとしたらタチが悪い。
そう思うのに、知ってしまった体温は簡単に手放せるものではなくて……
「ホワイトライアー」作品紹介より

 個人的に芹澤知さんの作品に共通して感じるのが“完成度の高さ”です。世界観とキャラクターが物凄く緻密に創られていて、1冊にとても多くの想いが込められているのが読後に感じられます。特に本作では慧と大河、2人のキャラクターの奥深さが魅力で、その2人の内面を紐解いていくような物語が素晴らしかったのでマイベストとさせて頂きました。

 本作では何よりも<オトモダチ>という遊びの関係から始まった2人が徐々にそのスタンスを変えながら、或いは無意識のうちに変わっていく様が見どころとなっており、個人的には慧の目線で作品の世界観に浸っていました。大河は一般人からすると偶像のような別世界の住人なのですが、そんな彼との“遊び”は慧にとって現実味の無い夢のようなフワフワとした時間だったのかな、と感じます。しかし、時折見せる大河の愛情表現に戸惑いを覚え、遊びであることを自分に言い聞かせる慧の心は強く揺さぶられていて、「そんなに大事に抱くなよ」という慧の心の声は悲鳴のようにも思えました。

「ホワイトライアー」より ©芹澤知/オーバーラップ

 遊びが遊びじゃなくなる感覚と本物の恋に対する恐怖心が慧の中で膨らんでいき、これ以上振り回されるのならばいっそ自分から断ち切ろうと大河に言葉をぶつける場面。大河が会うたびに違う顔を見せる天才肌の俳優であり、慧に向ける愛情も演じられた偽物ではないかと疑心暗鬼になった慧の表情が印象的な一幕でした。そして表情の見えない大河と、2人のセリフの全てが緻密に構成された名場面だと思います。

 本作では物語が進むにつれ、最初は慧の視点で捉えていたストーリーが、大河の隠された事実を契機にだんだんと大河の視点へと移っていくように感じました。そして作者もおっしゃられていましたが、最後まで読み終えた後、もう一度最初から読み返すとまた違った雰囲気が味わえる素敵な作品です。

 年の瀬にじっくり噛みしめながら読んで頂きたい1冊、是非お楽しみ下さい!

10年越しの愛の行く末(原周平)

 いよいよ2023年も年末、今年も数多くの素敵な作品との出会いがありました。そんな中、「マイベストBL 2023」としてご紹介するのは、2020年に「続きが読みたいBL」としても取り上げさせていただいた作品の最新刊です!

 古宇田エンさん「オレとあたしと新世界 6」(オークラ出版)

 以前ご紹介した当時は3巻まで刊行されていましたが、あれから物語は進み、ついにこの第6巻で完結を迎えました! ゲイバーで働くしのぶと、ノンケのマコトが偶然出会いお付き合いを始めて、ラブラブ話になるかと思いきや、交通事故でしのぶが10年もの間、意識不明の昏睡状態になる、という壮絶な展開に度肝を抜かれたのが懐かしいです。

 しのぶが目を覚ましてからも、2人の間にある10年という溝がどう埋まっていくのか、時折感じる不穏な空気にハラハラしながら読んでいましたが、満を持してハッピーエンドを迎えてくれて感激です……!

 自身のお店「新世界」で奔走するしのぶと、沖縄に長期出張となったマコト。物理的な距離も生まれてしまい、お互いを想い合っていながらも、いや想い過ぎているからこそ、どこかすれ違い続けてしまっていた2人。リュージ、リュージのおばー、田口くん、新世界のスタッフ、しのぶの母・百合子……新たに登場した人も含めて数多くの味方にさりげなく助けられながら、それぞれの気持ちと向き合って前進していく姿が印象的です。リュージのおばーがマコトに放った「面倒くさい子だね あんた」には笑わされましたが、僕もそう思ってました!と思わず同意しちゃいました(笑)。マコトがやっと自覚できるきっかけを作ってくれてありがとう、と伝えたいです。脇役のみんな全員、いてくれて良かった人たちばかりで、ワイワイしたり、悩んだり、励ましたり、支え合ったりするところがこの作品の魅力でもあります。そんな仲間とも呼べる人間関係を作り上げてきたのも、しのぶとマコトだからなんだな~としみじみ実感しました。

「オレとあたしと新世界6」より ©古宇田エン/オークラ出版 enigma

 ずーーっと思い、悩み続けてきた2人がやっとたどり着いた場所。

 「ムダなんてなにひとつなかったよ」

 このセリフに込められた思いがすべてを語っていて、深い深い2人の絆の話が報われて、マコトの笑顔がまた見られて、あの約束もちゃんと果たせる日が来て、本当に良かった……。これからもみんなで賑やかに、2人で穏やかに暮らしていってほしいです。

 連載開始から7年という月日を掛けて紡がれた2人の10年の物語、続きが読めなくなるのは寂しいですが、ゆっくり時間を取ってまた1巻から読み返したいと思います。古宇田エンさん、お疲れさまでした&心に残る作品を完成させてくれてありがとうございます!!