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泥ノ田犬彦「君と宇宙を歩くために」 「普通」とは、命綱のノート持って

(C)泥ノ田犬彦/講談社

 宇宙旅行もの?と思いきや、タイトルの「宇宙」とは目の前に広がるごく普通の世界のこと。あたりまえのようで、じつは歩きにくい我々のこの世界のことだ。

 主人公はヤンキー風の高校生。勉強についていけず、バイトも失敗ばかり。ドロップアウト気分の日々を過ごしているところに「ちょっと人と違うところがある」転校生がやってくる。彼は、人と同じように生活するのに多くの工夫が必要で、周囲からは変わり者扱いされる。思わぬことから彼とつきあうことの増えた主人公は、彼が日常生活の手順をいちいちノートに書いて持ち歩いていることを知る。それは、彼がこの宇宙をひとりで歩くための命綱なのだった。

 一見コミカルな展開の中で、さまざまな特性を持つ人の悩みが描かれる。世界を上手に歩けないのであれば、自分なりの方法を見つけるしかない。傍目(はため)からは変わって見えるその行動だが、読み進むうちにあたりまえでむしろ力強いものに思えてくる。「普通」との境目など、よく考えるとわからない。誰しもどこか他人ごとではないのだ。やがて自らもノートを持って、この宇宙を彼と歩き始める主人公の姿が、自然な形で描かれ心に響く。=朝日新聞2024年1月6日掲載