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生活とライフサイクルを活写する『「源氏物語」の時代を生きた女性たち』 田中大喜の新書速報

『「源氏物語」の時代を生きた女性たち』

 前近代の中で中学校・高校の教科書に最も多くの女性名が登場するといわれる平安時代。服藤(ふくとう)早苗『「源氏物語」の時代を生きた女性たち』(NHK出版新書・1078円)は、当該期の貴族層の女性を中心にその生活とライフサイクルの様相を活写する。

 彼女たちが著した仮名文学では高貴な人々との交流に加えて、自身の経験した喜びや苦悩が客観的に描かれたが、それは一夫多妻妾(しょう)制にもとづく男優位社会への抵抗の表れだったという。多くの女性名を伝える要因となった女流文学隆盛の背景には、皮肉にも男女の性愛関係の不平等性が横たわっていたのである。
★服藤早苗著、NHK出版新書・1078円

『長篠合戦』

 足軽鉄砲隊の一斉射撃という戦術を用いた織田信長が、武田軍騎馬隊を壊滅させた合戦としてイメージされる長篠合戦。金子拓(ひらく)『長篠合戦』(中公新書・990円)は、関連史料を読み解きながらそのイメージの形成過程を浮き彫りにする。

 長篠合戦を鉄砲戦として語る言説は、徳川氏の全国統治の正統性を証明することを目的とした近世の歴史書の中で強調されたものだが、近代になるとこれが信長による革新的戦術と捉えられて右のイメージが形作られた点は興味深い。歴史が創造されていく様を浮かび上がらせながら、その皮膜に包まれた合戦の実像にも迫る好著。
★金子拓著、中公新書・990円=朝日新聞2024年1月13日掲載