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ラテン語さん「世界はラテン語でできている」 時空を超えたギャップ萌え

 ラテン語は難しいといわれる。習っていない人がほとんどなのに、なぜみんなそう思うのだろう。日本人は英語が苦手。英語を話す外国人はみんな語学の達人に見える。その「先生たち」が口をそろえてラテン語は難解な言語だという。だからラテン語は難しいに決まっている。そんな思い込みをみごとに粉砕するのがこの本だ。世界はラテン語でできている。ディズニーリゾートはラテン語の宝庫。歴史、政治、宗教、科学、現代社会。アニメ、映画、ゲーム。あの言葉もこの言葉も、ルーツはみんなラテン語だ。お堅いはずのラテン語を知ることはこんなにも楽しいことなのか。本書が多くの人の心をつかんだのはこのギャップ萌(も)えによるのではないか。

 二千年前のローマにタイムスリップしてみよう。彼らはローマの支配は永遠なりと信じた。そこから現代日本をのぞくとどうだろう。至る所にラテン文字(アルファベット)があふれている。小学生はラテン語の読み方(ローマ字読み)を習っている。中学生は「三人称単数」や「過去分詞」といったラテン語の文法用語をたたきこまれている。大人たちは毎日画面をにらみながら「ローマ字入力」でキーボードをたたいている。よく考えればすごいことだが、「世界はラテン語でできている」と信じたローマ人から見れば驚くことではないに違いない。

 彼らが目の前に現れたらいうだろう。「永遠の長さから見れば二千年の隔たりは一瞬の星の瞬き。宇宙の広さから見れば地球の裏側の国など属州の一つに等しい。最近ヤポーニア(日本)で『世界はラテン語でできている』という本が出たそうだが何をいまさら(笑)。ラテン語は死語だとうそぶく者もいるがとんでもない。今も会話する者たちがいるし、文字を通して古典作家らと心の対話を試みる者は大勢いる。ラテン語は永遠に不滅だ」。星の光が時間を経て届くように、ローマ人のメッセージが時空を超えて今ようやく日本に届いたことを素直に喜びたい。=朝日新聞2024年2月10日掲載

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 SB新書・990円。4刷3万3千部。1月刊。著者はX(旧ツイッター)で人気の研究者。「専門的な内容を読みやすく紹介した」と版元。