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かりゆし58の「ウクイウタ」は作家デビューするまでの逢崎遊さんの主題歌だった

©GettyImages

 私の地元である沖縄には有名なミュージシャンが多い。パッと思い付くだけでも「MONGOL800」「BEGIN」「安室奈美恵」「HY」「ORANGE RANGE」など、錚々たる顔ぶれが並ぶ。
 私は「かりゆし58」が思春期ど真ん中の世代だ。沖縄のバンドということもあって熱狂的なファンは同級生にも多かったし、カラオケに行けば必ず誰かが歌った。地元のCMにも曲がよく起用されていたので、沖縄で彼らの名前を知らない人はいない。ちなみに彼らの代表作は「アンマー」と言う、自分を産み育ててくれた母親への感謝を歌った曲で、他県の人からすればこの曲が真っ先に浮かぶと思う。

 高校3年の時に、卒業後は上京すると決めた。沖縄は好きだったが、とにかく都会に出て一旗あげるという実に若者らしい目標を掲げていた。根拠のない漠然とした自信と、ちょっとの器用さと、挑戦することへの期待だけを持って。
 かりゆし58には、そんな故郷を離れて都会で頑張る人に向けて歌った「ウクイウタ」という曲がある。標準語で「贈る歌」という意味で、歌詞には、夢を追って沖縄を飛び出した親友を励ます地元の仲間達の言葉が並ぶ。励ますといっても「大丈夫だから」「努力は裏切らない」「夢は必ず叶う」なんて成功者が語るような綺麗事は一切書かれず、地元に残った友達の視点から檄が飛ばされる。歌詞は決して優しく包むような言葉ばかりではない。でも同郷で育った親友だからこそ、揺るがない信頼があるからこそのストレートな励ましが響く。お前のそんな顔見たくねぇよ。だから成功して、見送った時以上の笑顔で帰って来いよ。……みたいなニュアンスだ。
 思春期にこの曲と出会い、繰り返し聴き、都会で様々な経験を積むほどに「ウクイウタ」に対する思い入れは深くなった。思わぬ方向から攻撃を受け、心が折れそうになっている時にこの曲を聴くと、不思議と言葉に出来ない勇気が湧く。

「ウクイウタ」を聴いていると、浮かぶ友の顔がある。
 高校の時に私は剣道部の主将だったのだが、同じ道場を使っていた空手部の主将が、まさに歌詞にあるような言葉を贈りそうなヤツだった。主将同士だったこともあり仲がよく、私が小説を書いていることも知っていた。卒業文集に私の短編小説が掲載された際には、わざわざ私を探して「面白かったぞ」と小説の感想を伝え、「作家になるのか」と聞いてきた。
 その時にどう返したか詳細は忘れたが、彼は応援していると励ましてくれた。
 だいぶ荒そうな見た目と言動の割に、彼は人を大事にする男だ。友達は何人もいたが、上京して6年以上沖縄に帰らず、ただひたすら書き続けていた私の安否を気にし続けてくれていたのは彼だけだった。一時期だが、近況報告がてら文通をしていたこともある。
 小説すばる新人賞を受賞し、小説家としてデビューすることが決まった時、彼の顔が真っ先に浮かんだ。すぐに連絡を取ると、自分のことのように喜んでくれた。まるで「ウクイウタ」の続きを見られたような……想いを贈られた側が、答えを返した気持ちになった。

 彼と高校卒業以来の再会を果たしたのは、それから4ヶ月後。沖縄のテレビ局に取材して貰えることになり、収録のため久方振りに故郷の地を踏んだ。ありがたい忙しさに追われてバタバタとしていたから、友達と会う時間を確保出来るか分からなかったが……なんと彼は、自ら出迎えてくれたのである。
 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。テレビ局に入り、いざ収録と言う時にマイクを胸に付けてくれた音響担当が……まさかの彼だった。
 めっちゃ似てる人おるなぁー……と思っていたら本人だったので、思わず人目も憚らず大声を出してしまった。転職したとは聞いていたが報道関係とは知らされていなかったし、前日の電話で「近々会えるかもな」としか話していなかったのだから人が悪い。
 私の取材に配属されたのも偶然だったらしい。自分の初めてのテレビ取材で、親友の働く姿を目撃することになるとは夢にも思っていなかった。
 取材が終わり、あの頃と変わらない距離感で彼は言う。
「俺はお前の才能を信じてた。だから俺がファン1号な」
 その時、学生の頃から言い続けていた「お前が自慢出来るような人間になるからな」という言葉がようやく達成された満足感が込み上げてきた。

 自分の人生を一つの物語に例えるなら……この日の奇跡的な出来事は多分、無名の書き手から小説家としてデビューするまでの「上京編」の、きっとエピローグになるだろう。言わずもがな、物語の主題歌はかりゆし58の「ウクイウタ」だ。
 その日の帰り道で、主題歌のアウトロが流れ切った気がした。
 テレビ局の前で手を振り別れた親友に背を向け、私は新章に向けて歩き出す。