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フェミニズムの政治思想の歩みを歴史的に論じる「ケアの倫理」 杉田俊介の新書速報

『ケアの倫理 フェミニズムの政治思想』

 岡野八代ケアの倫理 フェミニズムの政治思想』(岩波新書・1364円)は、フェミニストたちが主に一九七〇年代以降に作り上げてきたケアの倫理の可能性を歴史的に論じていく。この世の価値は、もちろん、男性的な正義だけではない。人は脆弱(ぜいじゃく)であり、具体的関係の中でケアしケアされながら生きていく。そこに「もうひとつの」倫理が必要となる。ケアはさらに、公私の「私」にとどまらない政治性を持ち、デモクラシーや平和論、環境論をも鍛え直しうる。毀誉褒貶(きよほうへん)や紆余(うよ)曲折と共にあったケア倫理の歴史。その歩みへの静かな自負が感動的な一冊だ。男性たちもその歩みに連なれ。
★岡野八代著、岩波新書・1364円

『嫉妬論 民主社会に渦巻く情念を解剖する』

 山本圭嫉妬論 民主社会に渦巻く情念を解剖する』(光文社新書・946円)は、社会心理学ではなく政治理論の観点から嫉妬の情念を分析する。嫉妬は時に損得を度外視し、他者のみならず自らをも焼き尽くすような危険な情念である。しかもそれは政治的な領域や差別などにも利用されてきた。厄介なのは、平等や公正さが進み、他者との距離が近くなるほど、むしろ他者への嫉妬が強まってしまうことだ。しかし著者は、嫉妬は困った感情だが最も人間らしい感情でもあると述べる。嫉妬と適切に付き合い続けることで、民主主義も生き生きと維持されていくのである。
★山本圭著、光文社新書・946円=朝日新聞2024年2月24日掲載