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「パレスチナ解放闘争史」書評 「ここ」と「よそ」の間を見つめる

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2024年04月13日
パレスチナ解放闘争史: 1916-2024 著者:重信 房子 出版社:作品社 ジャンル:ジャンル別

ISBN: 9784867930182
発売⽇: 2024/03/19
サイズ: 13.3×19cm/484p

「パレスチナ解放闘争史」 [著]重信房子

 映画作家のゴダールは、かつてパレスチナで解放闘争を続ける戦士たちの映画を作ろうとして挫折し、そのことを踏まえて映画『ヒア&ゼア・こことよそ』を発表した。「ここ」が平穏なパリで「よそ」が流血のパレスチナを指す。このような落差が抱える困難は、現在イスラエル「と」パレスチナのあいだで起きている凄惨(せいさん)極まりない事態に、わたしたちがどう向き合うかについても、まったく同様だろう。
 肝心なのは、これらの「と」をめぐって過去になにがあったか「知る」ことだ。本書は現在、両者のあいだで起きていることを、かつて日本赤軍最高幹部としてパレスチナ解放闘争に参加した立場から「味方の側の決して美しくないあやまちや事実も含めて」欧米やアラブ諸国、旧ソ連から現ロシアに及ぶ、より大きな世界的構図から可能な限り詳細に綴(つづ)る。
 だが「読書」には適さないこのような「通史」を、どのように読んだらよいのだろう。わたしが本書に注目したきっかけは、かつて著者の協力のもと映画作家の若松孝二と足立正生が現地で撮影した映画「赤軍―PFLP 世界戦争宣言」のポスターが掲載されていたことによる。その原画は美術家の赤瀬川原平によって描かれ、美術評論家であるわたしにとっても縁が深い。
 そこからわたしはその頃、パレスチナを巡ってどのようなことが起きていたかを知りたいという強い関心を得た。するとどうだろう。無味乾燥に見えた記述が、これまで知り得ていなかった意味を持つようになった。そうでなくてもソ連の消滅、湾岸戦争、9・11などは、美術やアートの世界に抜本的な変化をもたらした。その根源にはつねにパレスチナ問題があった。
 本書にはどこから読んでも構わないとある。そのようなやり方でなら、わたしたちは目前にある「と」からの距離を、少なくとも一歩ずつ埋めていけるはずだ。
    ◇
しげのぶ・ふさこ 1945年生まれ。元日本赤軍最高幹部。2000年に逮捕。懲役20年の判決が確定して服役し、22年に出所した。