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ロードノベルの魅力を味わう「スター・シェイカー」 吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『スター・シェイカー』 人間六度著 ハヤカワ文庫JA 1210円
  2. 『ソリッドステート・オーバーライド』 江波光則著 ガガガ文庫 957円
  3. 『夜の人々』 エドワード・アンダースン著 矢口誠訳 新潮文庫 880円

 ここからどこかへ、遠くへ。ロードノベルは日常に縛り付けられた読者の願いを叶(かな)えてくれる。

 気鋭SF作家のデビュー作(1)の舞台は、人類が瞬間移動能力に目覚めた近未来日本。事故で能力を失った主人公が、謎の組織から追われる少女を東京から沖縄へと逃すために奔走する。移動ルートに選んだのは、老朽化した高速道路だ。そこにはロードピープルと名乗る人々が、地上ではお目にかかれなくなった自動車を運転していて……。異能力バトルなどエンタメ要素盛り沢山(だくさん)で進んでいく物語の核にあるのは、「移動は生存そのもの」というビジョン。「ここではない何処(どこ)か」を目指して移動し、進化を遂げてきた人類への祝福に満ちた物語だ。

 (2)は戦争を全てロボット兵士に任せるようになった世界で、ポンコツトラックに乗ってスクラップ集めを続ける二体のロボット(=衛生兵)の物語。凸凹コンビの趣味はラジオ番組の配信だ。ある日、戦場で存在するはずのない人間を発見し、彼女の家があるという「西の果て」へと向かう。終わらない旅が、終わらない戦争のメタファーとなっている点が面白い。

 (3)は一九三〇年代に発表された米国製ノワールの幻の傑作。オクラホマ州の刑務所を脱走した男が運命の女と出会い、テキサス州へと逃避行の旅に出る。指名手配犯と連れの女は、どんなに移動しようとも、どこへも行けない。自分を知らない人がいる場所など、どこにもない。ロードノベルの構造を採用したからこそ、行き止まりの感覚が強烈に表現されることとなったのだ。=朝日新聞2024年4月20日掲載