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おく「日本昔噺選集 梅花の想ひ人」 鮮やかな色彩、広がる絶景空間

(C)おく/KADOKAWA

 マンガは基本モノクロだ。たまにカラーページがあっても単行本ではモノクロになるのが普通。しかし、近年はウェブでカラー連載したものをそのまま単行本化する例も見られる。ただ、正直「わざわざ印刷コストをかけてカラーで出す意味ある?」と感じるものも多い。その点、本作はひと味違う。

 日本の民話を基にした5編を収録。巻頭作「襖(ふすま)向こうの景色」は、行き倒れた僧が謎の姫に救われる。寝食を供し、さらに「好きな物」を用意するので一刻待てと姫は言う。その間、屋敷内をぶらつく僧が見事な海や山の絵の描かれた襖を開けると、そこにはなんと本物の絶景空間が広がっていた。

 その絶景がまさに絶景なのである。日本画のように繊細な筆致と鮮やかな色彩。僧が襖を開けるのに合わせてページをめくると見開きで迫ってくる画面と演出に息を呑(の)む。「私が呼ぶまで入ってはいけない」と言われていた部屋に入ってしまい……という展開は定番だが、その部屋もまた美しい。

 第5話「竜と琵琶法師」で盲目の琵琶法師が龍神(りゅうじん)によって視力を得る前後の対比にも文字どおり瞠目(どうもく)する。大胆かつ美麗な視覚効果で古典的物語に新たな命を吹き込む。わざわざカラーで出す甲斐(かい)がある作品集である。=朝日新聞2024年5月4日掲載