しもかわらゆみさんの絵本「ほしをさがしに」 動物の姿を通して心のつながり伝えたい

——「『あっ、ながれぼし!』/ねずみは おもわず さけびました。/『ながれぼしは ねがいを かなえてくれるんだよ』/そう おしえてくれたのは なかよしの もぐらです。」雪が降り積もった真っ白な森のなか、点々と続く「ながれぼしのあしあと」をたどっていくねずみ。途中で森の動物たちが次々と加わって——。精緻な動物たちの描写に見惚れ、物語のラストに心あたたまる『ほしをさがしに』は、しもかわらゆみさんが初めて描いた絵本作品だ。
『ほしをさがしに』は、当時イラストレーションや動物細密画を学んでいた講談社フェーマススクールズ(KFS)が主催した絵本コンクール(KFS絵本グランプリ)に出した作品を元にした絵本です。「24ページで物語を考え、そのうちの見開き4場面をつくって応募」というルールだったので、「絵本を描くのは初めて」という私でも挑戦することができました。ありがたいことにグランプリを受賞して、これをきっかけに出版していただくことになりました。
実はコンクールに出品した時点での物語は、子どもが読むには少しシリアスな結末で……全体的にトーンが暗かったかもしれません。1冊の絵本として制作するにあたって、「私はこの絵本を通して読者になにを伝えたいのだろう?」とあらためて考えたときに、やはりそれは人と人とのつながりや、大切な存在との心の交流なのではないかと思ったんですね。雪原に残った不思議な足跡を追いかけていく……という最初に考えたストーリーは変えずに、仲間たちがねずみの冒険にどんどん加わっていくワクワク感、ラストはあたたかな希望が感じられる読後感にしようと試行錯誤を重ねました。
——手触りが感じられるような動物たちの毛並み、濡れたような目鼻の質感。緻密な描写といきいきとした動物の愛らしさが、しもかわらさんの絵本の魅力だ。
子どものころから動物が大好きなのですが、残念ながら私の愛はいつも「一方通行」なんですよ。実家で一緒に暮らしていた犬や猫も、私より弟のほうに懐いていて。かわいがりたくてそばに寄るといつも「うるさいなあ」という顔をされていました。「動物ふれあい体験」みたいな場では、だいたいどんな動物にもそっぽを向かれます(笑)。
『ほしをさがしに』の表紙は、絵本に登場する動物たちがみんな正面を向き、こちらをのぞきこんでくるような構図。扉もねずみが真正面を向いている絵です。『ぽつぽつぽつ だいじょうぶ?』や『ねえねえ あのね』(いずれも講談社)などの表紙のねずみもこちらを向いた「正面顔」です。
動物を正面から描くのが好きなのですが、もしかしたらそれは「こっちを向いてほしい」という片思いの表れかもしれません。「もし、この子が私を好きだったら、一体どんな顔をして見つめてくれるんだろう」と妄想しながら、動物たちの姿を描き続けています。
——動物たちを擬人化するときのリアルさと、「絵本ならでは」の表現の絶妙なさじ加減は、「ピーターラビット」シリーズの作者、を思い起こさせる。
「リアルな絵」と言っていただけることはうれしいのですが、私の絵は学習図鑑の動物細密画や生態画のような「本当にリアルな動物の絵」ではないんです。絵に関しては、自分ができる最大限の努力をしつつ、絵本としての面白さも追求していきたい。『ほしをさがしに』のなかでも、動物たちがそろって首をかしげる場面があって、制作当初は「演出しすぎじゃないだろうか……」と不安だったのですが、読者の方から「首かしげポーズがかわいいです」「わが家のペットも同じポーズをします」と言っていただけてホッとしました。
一方で、「ここはリアルに描写したいな」とこだわった部分も。絵本の後半で「もぐらがあるものを手の甲に載せて見せる」シーンがあるのですが、制作段階では「手のひらに載せて大事そうに差し出す」ほうが分かりやすいのでは、という指摘もありました。でも、土をかき分けて掘るもぐらの骨格上、そのポーズは実際にはできない。もぐらの実際の生態も大切にしながら表現したいと思い、「手の甲は上に向けたままで、大事そうに持つ」ところを細かく調整しながら何度も描き直しました。
動物を擬人化するとき、リアルとファンタジーのバランスにはいつも悩みます。読者からの感想で「わが家のうさぎもこんなふうに目を伏せます!」とか「うちのハムスターとおなじ仕草です」と言われると「私よりもはるかにその動物について詳しい人から認めてもらえたのかな」とうれしくなります。読者からの感想はどれも励みになりますが、「私の知らないどこかで、動物たちはきっとこんなふうに暮らしているに違いないと思いました」という感想は特に心に残っています。
——2013年に絵本作家としてデビューしてから、動物たちを主人公にした絵本の数々を生み出してきた。『ほしをさがしに』は海外でも翻訳出版され、特にヨーロッパでは高く評価されているという。最近では海外の作家とタッグを組んだ絵本にも挑戦。『ほしをさがしに』のドイツ語版を手がけた編集者から熱烈なラブコールを受け、実現したのが『おやつにしましょう』(文:ハンス・テン・ドウルンカート/講談社)だ。
『ほしをさがしに』のドイツ語版の編集をしてくださったスイス在住のハンス・テン・ドウルンカートさんから突然「一緒に絵本をつくりたい」というメールが届いて。「ずっとあたためていたストーリーがあるので、ぜひユミに絵を描いてほしい」と言われてうれしい半面、非常にプレッシャーを感じました(笑)
言語の壁や文化の違いもあってなかなか大変な作業でしたが、ハンスさんの故郷であるスイスの田舎の原風景を描けて楽しかったです。この絵本でも動物たちが主人公ですが、私がひとりでつくるものよりも「ファンタジー成分多め」の仕上がりになっています。海外の出版社からのオファーは、いつも自分のなかの新しい扉が開くようなチャレンジングなものが多いですね。
——しもかわらさんの絵本の根底に流れるのは、他者への思いやりや優しさ。絵本を通じて表現したいのは「人としてどうありたいか」だという。
私の絵本には、さまざまな動物たちが出てくるので「多様性をテーマにしているのか」と聞かれることもよくあります。でも、ことさら「多様性」と言わなくても、私たちってそもそも存在しているだけで一人ひとりが多様ですよね。
その人自身を構成する要素を全部並べてみたら、それこそ『ありがとう なかよし』『おしえて なかよし』(いずれも講談社)のねずみととかげのように、みんながそれぞれ違ったものを持っているはず。それが私たちの暮らしている世界のありようだと思うのです。
絵本を読む子どもたちには「大好きな人が自分のことを好きでいてくれたらうれしいよね」「願いごとを持ち続けていたら、それは願いを叶える力になるよ」といったことを、愛らしい動物たちの姿を通してやわらかく伝えていけたら、と思っています。