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三島由紀夫・生誕100年 坂東玉三郎さんが戯曲を回想「記憶のまま、ずっと生きている」

三島由紀夫作品を語り合う(左から)中村哲郎さん、坂東玉三郎さん、高橋睦郎さん

「戯曲の人物になるのは大変苦しい」

 玉三郎さんが初めて出演した三島作品は、新作歌舞伎「椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)」。19歳で主人公・為朝(ためとも)の妻、白縫姫に起用された。

 「単純に与えられたものを、感覚だけでやっていたということしかないですね」。一方で「三島先生は、『歌舞伎というものはこういうものなんだよ』と断定なさることがあって。若い自分にとっては、断定してくれることで、そこへ突進できる『楽さ』がありました」と振り返った。

 三島の没後、現代劇の「サド侯爵夫人」や、近代能楽集「班女」にも玉三郎さんは出演した。

 「サド侯爵夫人」で共演した南美江さんに言われた、「三島先生のお芝居はよく出来れば出来るほど、三島由紀夫像というものが立ち上がって、役者は死ぬんです」との言葉を紹介。

 その上で「三島先生の戯曲の人物になるのは大変に苦しい」。「普通の芝居は入れ込んだら浄化されていくのに、三島先生の戯曲は入れ込んだ挙げ句にノーと言われる。家に帰っても疲れがとれないと言うんでしょうか。精神的な」

 一方で、主演した「黒蜥蜴(とかげ)」は「私たちが入る余白がある。そこが演劇として楽しかったりするんでしょうね」。

 三島への思いを聞かれると「三島さんが死んだということが、あまり心にないんですよね。記憶のまま、ずっと生きているという感じ」。「三島作品が先生の人生から解放されて、音読したら楽しい、という時代がやってくるのかなと。今日お話をしてみて、そういう気がしています」と語った。(増田愛子)

多面性伝える品々紹介 日本近代文学館で企画展

「三島由紀夫生誕100年祭」の会場

 東京・駒場の日本近代文学館では、戦後を代表する作家の多面性を伝える貴重な品々が並ぶ「三島由紀夫生誕100年祭」展が開かれている。

 会場は三つのゾーンに分かれている。「三島愛」からは三島の幅広い人脈がうかがえる。目をひくのは69年初演の新作歌舞伎「椿説弓張月」関連の展示。三島が坂東玉三郎さんに贈った限定版の「サド侯爵夫人」があり、流麗な筆致で「椿説弓張月の若く美しく優婉(ゆうえん)なる白縫姫の思ひ出のために」と献辞がしたためられている。三島が安部公房や福田恆存らと互いに贈り合った署名入りの献呈本や、旅先で編集者や知人に送った絵はがきなども。

 「書物愛」には三島が生涯にわたって心血をそそいだ、美麗な装丁の限定本を展示。表紙がガラス張りの「仮面の告白」などが並ぶ。三島が敬愛し、挿画や装丁を頼んだ蕗谷虹児や村上芳正らの原画が飾られ、美術的な視点からも書籍を楽しめる。

 「日本愛」は、70年の三島事件に連なる政治的な一面に焦点を当てた一角。映画「憂国」や「楯(たて)の会」関係の資料を展示している。

 本展の主催は高橋睦郎さんを顧問にした、有志による実行委員会。代表を務めた井上隆史・白百合女子大教授は「三島文学を好きでも、晩年の政治的な行動についていけない人はいる。逆に政治的な面に共鳴しても文学にさほど興味がない人も。矛盾に満ちているように見える三島だが、その矛盾を生きた一人の人間として、改めて彼の全体像を感じとってもらえたら」と話す。8日まで。(野波健祐)=朝日新聞2025年2月5日掲載