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能登半島地震に揺れる日本の原発政策を検証する『新潟から問いかける原発問題』

記事:明石書店

『新潟から問いかける原発問題――福島事故の検証と柏崎刈羽原発の再稼働』(池内了著、明石書店)
『新潟から問いかける原発問題――福島事故の検証と柏崎刈羽原発の再稼働』(池内了著、明石書店)

 本来なら、私は「新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会」の委員長として、その報告書を提出する任務を全うするつもりであった。ところが、その作業にとりかかる前の2023年3月31日をもって、「任期切れ」により委員長を解任されてしまった。そこで私は、委員長であった責任上、そして少しでも新潟県の原子力行政の一端に携わった行きがかり上、本書を執筆するに至った。

新潟県柏崎市荒浜より望む柏崎刈羽原子力発電所。(Wikimedia Commons)
新潟県柏崎市荒浜より望む柏崎刈羽原子力発電所。(Wikimedia Commons)

柏崎刈羽原発再稼働、そして日本全体の原発政策の再考を

 新潟県には世界一の規模である柏崎刈羽原発があり、現在運転を休止しているが、早晩その再稼働が問題になることは必至である。そこで、新潟県知事であった米山隆一氏が、2017年8月に、「新潟県の原子力行政に関わる3つの検証委員会」を立ち上げ、翌年2月にその検証結果をとりまとめる検証総括委員会を発足させた。日本の原発行政の課題を総点検し、再稼働の議論を県民全体で行おうという「新潟県の挑戦」を開始したのであった。しかし、その挑戦は紆余曲折の末、2023年3月31日の新潟県知事花角英世氏による私の委員長解任をもって「挫折」してしまった。花角知事は、私のみを解任したわけではなく、3つの検証委員会及び検証総括委員会すべてを消滅させるという挙に出たのである(ただし、技術委員会は従来から存在してきた「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」として存続する)。委員長である私のみを解任すれば社会の反発が強くなることが予想されるため、このような措置を採ったのだろうと憶測される。日本の原発行政のあり方を根底から議論する機会を、新潟県が「自前で起ち上げ、自前で壊した」ことになると言えようか。私も検証総括委員長として、さまざまな論点について議論し、総括し、結果をとりまとめる機会を失ってしまったのである。

 とはいうものの、私としてはそのまま沈黙してしまうわけにはいかない。委員長に就任以来の約5年間で、委員会審議は2回しか行われなかったが、2つの検証委員会(技術委員会と避難委員会)と2つの分科会(健康分科会、生活分科会)には可能な限り傍聴して議論の進展を見守ってきた。解任された今でも検証総括を行う意志を持ち続けており、委員長在任中から行ってきた原発行政に関する問題点の調査・学習・考察を続けている。そこで、それらをまとめて「特別報告書」を公表してはどうかと考えた。まずPDF 版で『池内特別検証報告』を11月22日に公表した。それを元に原発に関連するさまざまな論点や課題を書き込み、原発事故に対応しての関連事項を取り上げ、多角的な側面から原発問題について論じることにした。それが本書である。

 本書は、新潟県民が特に求めている「柏崎刈羽原発の今後」について考える材料とするとともに、全国の原発立地自治体の人々にとっても現状を振り返り、今後の運動の参考にできるのではないかと思っている。さらに、広く原発問題に関心を寄せている多くの人たちにとって、今後の日本の原発政策を考える上でのヒントになれば幸いである。

震災・津波後の福島第一原子力発電所1~4号機。(Wikimedia Commons)
震災・津波後の福島第一原子力発電所1~4号機。(Wikimedia Commons)

世界的危機情勢の中で、日本の原発をめぐる多角的な論点を網羅

 本書では、まず第Ⅰ部「新潟県の挑戦と挫折」の第1章において、新潟県の3つの検証委員会と検証総括委員会設置という画期的な「挑戦」を紹介する。ところが、この検証を形式的なものにとどめようとする県と検証総括委員会委員長である私との間で対立が生じた。この経緯を第2章にまとめる。2020~23年はコロナ禍もあって検証総括委員会としてあまり活動できなかったが、その間に知事や県の幹部とのやりとりがあった挙げ句「挫折」した。その状況を詳しく書いておく。続く第3章で、委員長解任後に新潟県で行った「池内了と話そう」と題した原発キャラバンなどを紹介し、そこで議論された「市民検証委員会」の今後について述べておく。

 第Ⅱ部「4つの『検証報告書』の概要とコメント」の4つの章は、検証委員会からの報告書の概要と読んでの感想と意見をまとめている。3つの検証委員会が出した報告書のそれぞれについて、私の印象に強く残った点をピックアップした。検証報告書として、十分議論が尽くされているか、欠けている論点は何か、等を論じている。検証総括委員会で議論すべきであった論点である。以上が、今回の検証総括委員会に直接関連する内容で、検証総括委員長として述べるべき論点の主要部である。

 続く、第Ⅲ部「柏崎刈羽原発の再稼働は大丈夫か」では、原発の今後についての議論であることを際立たせるために、原発に関連する幅広い事項や原発事故への対応について論じた。この部分が、今回の経緯の中で考え、特に議論すべきとして取り上げた論説部である。第8章では、原発関連諸機関(東京電力、県と立地自治体、原子力規制委員会、司法)の適格性について、率直な疑問と問題点を提示した。続く第9章では、原子力技術の不確実性として、原発技術につきまとう難問を拾い上げた。その多くはトランスサイエンス問題など原発技術につきまとう難問で、容易に解答が得られるわけではない。そこに原発問題の難しさが凝縮している。続く3つの章は原子力事故に絡む諸問題を取り上げ、甲状腺がんなどの健康被害の実相(第10章)、原発事故に伴う避難の問題(第11章)、地域と自治体に引き起こされた問題(第12章)、とそれぞれ異なった側面を論じている。そして第13章では、ロシアのウクライナ侵略以来、にわかにクローズアップされるようになった原発とテロ・戦争との関連について考える。最後の章は私のささやかな提言である。

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