ヨシタケシンスケさんの新作『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』刊行記念
《かみくちゃコンテスト》に、全国からたくさんのかみくちゃさんがあつまりました。
「こんなことしてみたい!」「いまはまだこんな状態だけど」
そんなまっすぐな夢、大胆な希望、ちいさな発見……たくさんのご応募をいただきありがとうございました。
ヨシタケさんが選んだ大賞、及び入賞の方には作者のサイン入り『ヨシタケシンスケ展かもしれない』図録などが贈呈されます。

「かみはこんなに くちゃくちゃだけど」より
(ヨシタケシンンスケ著・白泉社)

大賞作品 大賞作品

入賞作品 入賞作品

白泉社ヨシタケシンスケの本 白泉社ヨシタケシンスケの本

「かみはこんなに くちゃくちゃだけど」

ヨシタケシンスケ著/白泉社 
定価:1,100円(税込み)

MOE絵本屋さん大賞2020第1位を受賞した『あつかったら ぬげばいい』の姉妹編が登場!歌手になりたいと願う女の子、自分が何に向いているかわかったおじいちゃん、朝顔の花が咲いたのを発見した女の子…。
こんな時代だからこそ、日常に小さな希望を見つけたい。どこかのページに、あなたがいるかもしれません。子どもだけでなく、大人も何度も開きたくなる絵本です。

「あつかったら ぬげばいい」

ヨシタケシンスケ著/白泉社 
定価:1,100円(税込み)

インタビュー インタビュー

日常の小さな夢や希望と、
変えようのない世界と
社会の大きなトホホ

ネガティブな状況や出来事にのみ込まれないための練習

―2020年8月に出版された『あつかったら ぬげばいい』の姉妹編として刊行された『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』。絵本を開いた左右のページで、さまざまな人とシチュエーションが描かれている点で「姉妹編」だという本作だが、その構想は以前から「形にしたかったもの」だという。



僕自身がとてもネガティブな人間なんです。暗いニュースや先の見えない状況にすぐにのみ込まれてしまいそうになる。でも、日常には必ず、小さくても「いいこと」や、ちょっとした「楽しみ」、かなわなくても「持っていたい夢や希望」があると思っています。

例えば「今日はすごくへこむことがあったけど、明日は大好きなマンガの発売日だったよな、とか、冷蔵庫にはまだプリンがあったよな、とか」。そういうちっちゃいけれど、ポジティブなことがあるから、僕たちは、あらがいようのない、つらい現実がいっぱいある世界でも、どうにかバランスを保ちながら生きていける。

だから、小さな「いいこと」を、見つける練習をしておいた方がいい。それは、僕自身の経験からも常々考えていることです。

社会が不幸であることと、自分が不幸であることは違います。自分を救うのは日常の中にある小さな幸せや夢。そのことをもう一度ていねいに拾い上げて、描いてみたいと思いました。

どこから読み始めて、どこでやめてもいい

―いつでもどこでも自分の好きな映像を見ることができたり、発信することができたりする今、絵本という形にしかない魅力、本にしかできない表現、そして本ならではの強みもある。



まず、「形あるもの」として手に持っていられることは大きいと思います。手にした本は、ずっと変わらずにそこにあり続けます。アップデートもされませんし、充電する必要もありません。読み手が成長して変わっていき、時間が経ってもう一度読んだときに、異なる発見や感動があることもあります。僕の読書体験がそうでした。

『あつかったら ぬげばいい』とか『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』のようなタイプの本は、どこからでも読めて、いつでも読むのをやめられることも特徴だと思っています。自分が、どっぷりと物語に浸るタイプの子どもではなく、いつもどこか気が散っている子どもだったので、テキストは短い方がいいなと。トイレに一冊こんな本があったらいいかなと思っています。

小さな幸せと大きながっかり。
何も解決はしないけれど

―『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』に描かれているのは、さまざまな年代の人の「小さないいこと」と「大きなよくないこと」。そんなデコボコの描き方へのこだわりとは。



「いつかかしゅになりたいの」「かみはこんなに くちゃくちゃだけど」小さな女の子の小さな夢から始まる本作。どこかの誰かの小さな夢や希望や、やりたいこと、そしてその人を取り囲む避けようのない現実の対比。その描き方には、できるだけさまざまな年代とシチュエーションを入れられるようにと心がけました。子ども、大人、お年寄り、赤ちゃん、男の子、女の人――。

それぞれが持つ希望と現実。その「希望」に関しては、うれしくて仕方がない、すごくハッピーというものよりも、現実的なうれしさ、うれしいけれど、それが最高というわけではないという「どっちつかずのもの」も入っています。そういうとき、人はどんな顔をするのだろうと想像して描いた「どっちつかずの表情」は、難しかったです。

希望と現実の対比は、できるだけ小さくてパーソナルな希望と、大きくて自分の力ではどうにもできない現実を見開きで表現したいと考えました。そこに救いがあるわけではないけれど、希望を見つけてニヤリとできるような、誰かの「いいこと」。

対比して描いたところで、じゃあ、どうすればいいのかという答えがこの本の中にあるわけではありません。ただ、小さな「いいこと」にしがみつくことの大切さに気づいてくれたらうれしいなと。

「自分にとって自分を助けている小さな小さないいことってなんだろう」と、読んだ人が考え、たとえそれが100%のハッピーではなかったとしても、30%くらいは心を明るくできる何かを見つけてもらえればと思っています。

プロフィール

プロフィール

ヨシタケシンスケ(よしたけ・しんすけ)1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。絵本デビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。『りゆうがあります』(PHP研究所)で第8回MOE絵本屋さん大賞第1位、『もう ぬげない』(ブロンズ新社)で第9回MOE絵本屋さん大賞第1位、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞するなど数々の賞を受賞し注目を集める。2020年8月に出版された『あつかったら ぬげばいい』の姉妹編『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』が4月1日に刊行。

展覧会情報 展覧会情報

ヨシタケシンスケさんのはじめての大規模な展覧会「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が2022年4月、東京会場を皮切りに、全国で開催されます。

ヨシタケシンスケ展かもしれない
©Shinsuke Yoshitake