The Sweetest City, Tokyo

Tokyo甘味物語
Interview
和スイーツの基本、あんこ大好き!
Vol.2
和スイーツの基本、
あんこ大好き!
林望[作家・国文学者]
川田裕美[フリーアナウンサー]
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大福に羊羹(ようかん)、お団子など、和菓子にかかせないのが「あんこ」です。小豆に砂糖、塩というシンプルな材料ですが、渋切り(小豆の渋み成分を取り除くこと)の仕方や水分量など、微妙な配合や製法の違いで、100人の職人がいれば100通りのあんこが存在します。そんなあんこをこよなく愛する作家の林望さんとフリーアナウンサーの川田裕美さんに、あんこへの熱い思いをうかがいました。
[取材・構成:根津香菜子]

作家・林望さん
「薄紫色が東京のあんこの色なんです」

学生時代、食パンにこしあんとマヨネーズを挟んだ「あんこまパン」を考案(愛食)し、そのレシピが声楽曲になっている林望さんは、幼いころから「こしあん」一辺倒。以前からひいきにしているという神楽坂にある「紀の善」で、こしあんの魅力などを語ります。
[写真:斎藤卓行=ダルク モデルズアンドファクトリー]

林望
林 望 作家・国文学者

——林さんは幼いころから「こしあん」がお好きなのですか?

僕は子供のころからこしあんが好きですね。よく「こしあんとつぶあん、どちらにしますか?」と聞かれると、迷わず「こしあん」と言っていました。僕に限らず、東京の人は割とこしあん好きなんじゃないですかね。関西の方がつぶあん好きな人が多い気がします。

——林さんと言えば、サンドイッチ用の食パンに冷たいこしあんとマヨネーズを塗ったレシピが歌曲になった「あんこまパン」が有名ですが、誕生秘話をお聞かせください。

誕生秘話と言うほどでもないんですけど、学生時代、信州の別荘にいる時に発明したんです。今から50年近く前ですかね。その頃は「お菓子が食べたいな」と思ったら、長野県の信濃大町に昔からある「小日向(おびなた)製菓舗」という和菓子屋さんがあって、そこで作っているあんこを買ってきては、溶かしてお汁粉にしたり、ジャムの代わりにパンの上につけて食べたりしていました。

ある時ふと、中学時代に関西から転校してきた友人のことを思い出したんです。そいつが甘い卵焼きとマヨネーズのサンドイッチを食べていたんですよ。初めは「えーっ?」と思ったんだけど、食べてみたら本当に美味しかった。甘い卵焼きとマヨネーズが合うんです。それを思い出して、あんこもマヨネーズと合うに違いないと考えたわけです。今でも、たまに作って食べますよ。

——今日お伺いした「紀の善」は、江戸時代末期から神楽坂にお店を構えている老舗ですが、この粟ぜんざいをお知りになったきかっけは何だったのでしょうか。

以前、東横学園女子短期大学で教えていた学生に教わりましてね。「先生、紀の善の粟ぜんざいは食べましたか?」と言われ、ぜひ食べたほうがいいと勧められて行ってみたら「これは美味い!」と思いました。この粟ぜんざいは、桜の花が咲くころは店に出なくて、秋から冬の間だけ食べられるんですよ。なので、今のような寒い季節には最高です。

林望

——ぜひ温かいうちに召しあがってください。

では(と言って、お椀のフタを開ける)。フタを開けた時の、この景色がいいじゃないですか。黄色い粟と、薄紫色のこしあんでね。このあんこの色が独特なんですよ。昔、文京区の本郷にあった「藤むら」(現在は閉店)という羊羹の有名なお店も、こういう色のあんこでした。これが東京のこしあんの色なんです。京都の方だと「ぜんざい」っていうとつぶあんですが、やはりこしあんがいいですね。

また、この甘さがちょうどいいんですよ。僕は甘すぎるあんこは嫌いでね、自分であんこを炊くときも、あまり甘みは入れないんです。ここのあんこは良い豆を使っているから風味が格段にいい。たまに輸入物の豆を使っている店もあるんだけど、やっぱり香りも違うし、味が全然違う。それは一口食べてみれば分かります。

「紀の善」粟ぜんざい
「紀の善」粟ぜんざい[946円(秋冬のみ)]

——まだ湯気が立っていて、熱そうですね。この粟ぜんざいは、匙(さじ)ではなく、お箸で食べられるのですか。

粟飯もこしあんもしっかりしているから、お箸で食べられるんですよ。この熱さも美味さの一つです。ここの粟ぜんざいは、どちらかというと粟飯がすごく熱くて、あんこは少し温度が低いんだけど、口に入れると粟めしの熱いのがぐっときましてね、カロリーも十分とれるから、これ一つ食べるとお腹いっぱいになります。あ、もう食べ終わっちゃった。

——あっという間に完食されましたね!

普通は甘いものを食べていると、途中で添えてある塩昆布みたいな塩辛いものを食べたくなるんだけど、この粟ぜんざいは食べたくならない。一気に食べきります。粟飯が甘くないから、こしあんとちょうどいいバランスなんです。初めて食べた時と全然味は変わらないですね。お店は内装がちょっときれいになった気がするけど、この味はね、全然変わらないです。持ち帰りもあるんだけど、やっぱり店に来て食べないと、この出来立ては味わえないですよ。それに、こういうところでないと、粟飯を食べるチャンスもないでしょう。この粟飯は実に美味しいものです。ぜひ食べたほうがいいですよ(笑)。

林望

——林さんにとって、あんこってどんな食べ物ですか?

僕はね、酒は飲めないけど、あんこが大好きで「あんこ命」なんですよ。和菓子って結局あんこで出来ているでしょう。以前、体調を崩したことがあって、その時は洋菓子は脂肪分が多いので一切食べていなかったけど、あんこは豆が主原料ですから。タンパク質と炭水化物が主で、ほとんど脂肪を含んでいないから非常に健康的で、安心して食べられます。僕の身辺には、常々あんこ菓子がありますよ。

あんこと言うと、僕は饅頭(まんじゅう)というものが非常に大事だと思っています。羊羹や練り切りは、ほぼあんこしか食べないんだけど、そこに小麦粉などを練って作った「皮」というのがついた饅頭というのが、一段とあんこを普及させたものじゃないかと思うんです。実は僕「饅頭研究家」でもあるので、講演なんかで全国各地に行くと、行く先々で必ず饅頭を食いますよ。どこの街にも饅頭って大体売っていますから。

それに、美味しいあんこを作るには、代々受け継がれる、洗練した歴史があるでしょうし、一朝一夕にはこういうものができないでしょうからね。甘みにしたって、一番食べやすいのはどれくらいか、食べ飽きやしないかということを、職人さんたちがちゃんと経験的に割り出して、良いものを作るためにノウハウを積み重ねて凝縮したものが「あんこ」という産物になっていると思うんです。つぶあんは小豆を煮ればできるけど、こしあんは煮て、裏ごしして、ゆるいところからまた煮詰めていかなければいけない。手間がかかっていて、実際に作るのは大変ですよ。そうやって手塩にかけたものというところも、こしあんの美味しさにつながっているのだと思います。

はやし・のぞむ/作家・国文学者。1949年生まれ。東京都出身。91年に『イギリスはおいしい』(平凡社・文春文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、作家デビュー。主な著書に『リンボウ先生のうふふ枕草子』、『謹訳源氏物語』全10巻(いずれも祥伝社)など多数あるほか、歌曲『あんこまパン』(作曲:伊藤康英)や合唱曲の作詩も手掛ける。通称「リンボウ先生」。
[公式HP]
https://www.rymbow.com/

紀の善

[所在地]東京都新宿区神楽坂1-12 紀の善ビル
[アクセス]JR総武線「飯田橋」駅西口
東京メトロ有楽町線・南北線「飯田橋」駅B3出口
[TEL]03-3269-2920
[営業時間/定休日]
火~土曜:11:00〜20:00(L.O. 19:30)
日・祝日:11:30〜18:00(L.O. 17:00)
月曜休み
[公式サイト]
http://www.kinozen.co.jp/

紀の善
フリーアナウンサー・川田裕美さん
「世に知られていないあんこを見つけたい!」

子供のころから家にはゆであずき缶が常備され、缶からスプーンですくって食べていたというエピソードで一躍「あんこ好き」として知られた川田裕美さん。東京での「あんこ巡り」や、人形焼やあんこ玉など、東京の定番あんこのお菓子について語ります。
[写真:有村蓮=ダルク モデルズアンドファクトリー]

川田裕美
川田裕美 フリーアナウンサー

——おばあさま手作りのあんこを乗せた白玉や、お母さまが常備していた冷凍の回転焼き(今川焼き)など、幼い頃からあんこが身近にあったという川田さん。フリーアナウンサーに転身し、上京してからは、東京の「あんこ巡り」を楽しんでいたそうですね。

上京した時は「これから色々なあんこがたくさん食べられる!」とワクワクしていましたね。関西にいる時から東京の有名なお店は知っていたので、もう行きたくてしょうがなかったです。「東京三大大福」や「三大たい焼き」と言われているお店はすぐに行きましたし、休日は何軒もお店を回ってあんこをはしごしていました。「一日でそんなに食べられないんじゃない?」と言われることもありますが「甘すぎて食べられない」ということはなかったです。

——行きたいお店はどうやって調べていたんですか?

インターネットでも調べましたし、雑誌やテレビ番組の和菓子や手土産特集が大好きで、よく見ていました。特に「東京三大大福」の一軒でもある「松島屋」さん(港区泉岳寺)は、すぐに行きたかったお店でした。関西にいる時、番組で食べたことがあったんですが、その美味しさに衝撃を受けまして「これは作りたてを食べたい」と思ったんです。実際に伺って大福を頂いたんですが、想像をはるかに超える美味しさでしたね。店構えもレトロで、老舗の風格があるんです。ショーケースも昔ながらの感じがして、対応してくださるご主人も本当に優しくて、そんな雰囲気にも癒されましたね。

——上京されてから、東京のあんこで印象に残っていることはありますか?

まず、和菓子屋さんが多いなと思いました。京都などの関西にもお店は多いんですけど、きっと京に都があった時よりも江戸に都があった時の方が、あんこをはじめとする甘い物を庶民たちも食べられるようになったからじゃないかと思います。

——葛飾区柴又の「草だんご」や、文京区湯島の「小倉アイス」など、都内でもその町ごとに名物の「あんこ菓子」がたくさんありますよね。

そこが関西と少し違うところだなと思いました。それぞれの地域に100年くらい続く老舗のお店がありますし、伝統を受け継ぎながら新しいものも取り入れていくあんこのお菓子もあって、あんこの幅が広いなと感じました。

川田裕美

——今日は「あんこ玉」に「豆大福」「人形焼」をご用意しました。川田さんはどれも実食済みですよね。

舟和さんの「あんこ玉」は、まず見た目がかわいいですし、色も様々で「桜あん」など、季節限定のあんこもあって、どれを選ぼうかと悩むのも楽しいです。あんこそのもの、という感じなんですけど、甘さがちょうど良いんですよ。一つだけでももちろん満足できますけど、まだまだ食べたくなるような甘さなので、幅広い年齢の方に楽しんでもらえると思います。定番の小豆もいいですが、私は白インゲン豆で作った白あんが大好きなんです。白あんって結構控えめな感じがしますが、いちご大福に白あんが合うように、一緒にある食材を引き立てる良さがあるんですよね。

大福は昔から食べていますけど、豆大福というのは東京に来てからよく食べるようになりました。関西にももちろんあるんですけど、あんころ餅や塩大福の方がメジャーでした。東京の豆大福の方が、赤エンドウの味がしっかり感じられるなと思います。少しの差ですけど、豆の塩気がさらに甘さが引き立つので、甘いとしょっぱいのバランスがとても好きです。

「銀座甘楽」の豆大福/「舟和」のあんこ玉
(写真左)「銀座甘楽」の豆大福[ 1個206円]。東京・銀座の本店をはじめ、JR「東京」駅や「品川」駅などの構内で購入可
(写真右)「舟和」のあんこ玉[9個入り777円~]。東京・浅草の本店をはじめ、百貨店や、JR「東京」駅、「上野」駅などの構内のほか、オンラインショップでも購入可

「人形焼」と聞くと「THE・東京」という感じがしますね。東京の甘いもの、しかも手土産で喜ばれるものというと、やっぱり最初に思い浮かびます。人形焼も関西の時から食べていましたが、東京に来て食べ比べてみるとそれぞれの特徴がかなりあるんだなと思いました。形はもちろん、中に入っているあんこの量や焼き方によって味も違います。冷めていても美味しいのですが、お店に行って焼きたてを食べるもいいですよね。舌がやけどしそうなくらい熱くて、とろっとしたあんこが出てくるのも好きです。

「人形焼本舗 板倉屋」の人形焼
「人形焼本舗 板倉屋」の人形焼 [5個入り500円~]

——「つぶあん派」と「こしあん派」に分かれる人もいますが、川田さんは「オールあんこ派」なんですよね。

どっちが好きかとよく聞かれるんですけど、私にとっては「お父さんとお母さんどっちが好き?」と聞かれているようで選べないですね。どちらにも良さがありますし、つぶとこしの間の「つぶしあん」や、うぐいすあんも大好きなので、どれも甲乙つけがたくて順番はつけられないです。つぶあんの良さは「小豆を食べている」という食感ですよね。皮がしっかり口の中にあって、噛むほどに小豆の風味がどんどん広がっていくところだと思っています。こしあんは、なめらかで舌触りが良いので、お餅やお団子など色々なものに合いますよね。

川田裕美

——これから東京で見つけてみたいあんこはありますか?

自分で歩いて見つけるしかないなと思っています。歩きながらパッと見つけたお店にふらっと入ったら、そこがすごく美味しかったという経験もあるので、もっと自分で足を延ばして、まだどのテレビ番組や雑誌でも紹介されていない、地元の人しか知らないようなあんこのお店を見つけたいです。

かわた・ひろみ/フリーアナウンサー。1983 年生まれ。大阪府出身。読売テレビアナウンサーを経て、2015 年よりフリーに転身。主な出演番組に「1周回って知らない話」(日本テレビ)、「この差って何ですか?」「ぴったんこカン・カン」(TBS)、「ピーチCAFÉ」(読売テレビ)など。 『あんことわたし』(ぴあ)があるほか、ウォーカープラスの連載「川田裕美の東京あんこ巡り」をまとめた『東京あんこ巡り』(KADOKAWA)が2月25日に発売予定。
[オフィシャルサイト]
https://www.centforce.com/profile/t_profile/kawatahiromi.html
[公式ブログ]
https://ameblo.jp/kawata--hiromi/
[公式Twitter]
@hiromikawata

銀座甘楽 銀座本店

[所在地]東京都中央区銀座6丁目2番先
[アクセス]東京メトロ「銀座」駅C1出口から徒歩5分
[TEL]03-3573-2225
[営業時間/定休日]
10:00~21:00(日・祭日は10:00~19:00)
[公式サイト]
http://www.kanra.co.jp/

銀座甘楽
舟和 浅草本店

[所在地]東京都台東区浅草1-22-10
[アクセス]
地下鉄「浅草」駅から新仲見世通りと
オレンジ通りの角1階
[TEL]03-3842-2781
[営業時間/定休日]
平日:10:00~19:00
土曜:9:30~20:00
日・祝日:9:30~19:30
[公式サイト]
http://funawa.jp/

舟和
人形焼本舗 板倉屋

[所在地]東京都中央区日本橋人形町2-4-2
[アクセス]地下鉄「人形町」駅A1出口すぐ
[TEL]03-3667-4818
[営業時間/定休日]
9:00~売り切れ次第終了/不定休
[公式サイト]
http://www.itakuraya.com/

人形焼本舗 板倉屋
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【問合せ先】
book-support@asahi.com