味わう東京スイーツ
手がけたお店で味わう
東京スイーツ
21世紀の東京には、世界をまたにかけて活躍する日本人建築家が手がけた建築とオリジナルスイーツを共に楽しめるお店が次々と生まれています。新たな観光名所にもなっている「スイーツ×スポット」の中から3店を紹介します。
[文:塩見圭/写真:長島史枝]
「廚 菓子 くろぎ」
東京大学の本郷キャンパス内にある甘味処「廚(くりや) 菓子 くろぎ」は、新国立競技場を手がけた建築家の隈研吾さんが設計しました。本郷三丁目駅から徒歩5分の春日門を入ってすぐ。東大のシンボルで国指定重要文化財の赤門からも5分ほどで着くため、学生以外でも散策がてら気軽に入りやすい場所です。
店がオープンしたのは、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された翌年の2014年。芝大門にある日本料理の名店「くろぎ」の店主・黒木純さんと、東大の教授で日本の素材を生かすことで知られる隈さんが、「和の文化をより発展させたい」という考えのもと、「和の建築」で「和のスイーツ」を出すことになりました。
細長い杉板をうろこ状に張り巡らせた外観は、隈建築の真骨頂。よく見ると板の幅の長さが一枚ずつ異なり、隙間もランダムにあいているため、奇抜なようでいて柔らかな表情を生んでいます。内装も隈さんのデザインで、お客さんが職人の手仕事を見られるようにと調理台の高さを低めに設定。「見られること」を意識した店はほどよい緊張感があり、隅々まで明るく感じます。テラス席は頭上まで木材に覆われ、周囲の緑となじみ木陰にいるようです。
[所在地]東京都文京区本郷7-3-1
東京大学本郷キャンパス春日門側
ダイワユビキタス学術研究館1階
[アクセス]東京メトロ・都営地下鉄「本郷三丁目」駅
[TEL]03-5802-5577
[営業時間/定休日]
10:00~19:00(L.O.18:00)
11月~2月は水曜休み
そのほか大学の試験日など臨時休業あり
[公式サイト]http://www.wagashi-kurogi.co.jp/
「アンリ・ファーブル」
劇場は観劇するだけの場所じゃないと教えてくれるのが、杉並区の公共施設「座・高円寺」。高円寺駅北口から歩いて5分、商業地区と住宅地の混在したエリアにサーカス小屋のような形の劇場があります。外から内部が見えないため、演劇ファン以外の人が初めて入るにはちょっと躊躇しますが、思い切って入ると、正面奥に丸い光がドット模様のようにちりばめられた螺旋階段が。好奇心に誘われて2階へ進むと、そこが「カフェ&レストラン アンリ・ファーブル」です。
設計したのは、建築家の伊東豊雄さん。2009年に初代館長の劇作家・斎藤憐氏と芸術監督の演出家・佐藤信氏が中心になり、地域の「広場」を目指してオープンしました。中でもカフェは、「伊東豊雄さんの建築を間近で感じられる」とスタッフに応募する人がいるほど、建築好きにとって知る人ぞ知る場所。ベンガラの土壁にいくつもある円形の窓から自然光が入り、曲線を描いた天井は洞窟のような安心感があります。「差し込む光の強さが変わっていく夕方が一番好きなんです」と語るのは、カフェ担当の大谷尚義さん。壁には円形の照明もはめ込まれ、夜は落ち着いた照度のスポットライトでドラマチックに。「座・高円寺」企画・広報の森直子さんは「奇をてらわず、機能とのバランスが練られていて、建物としてすごく知的な感じがします」と話してくれました。
子どもにもたくさん来てほしいことから、壁には絵本がずらり。2千冊以上の絵本から季節に合わせて常時250冊を並べ替えています。毎週土曜日には、テーマに沿って名作を紹介する読み聞かせイベント「絵本の旅@カフェ」も。おやつを食べながら、「本読み案内人」が子どもにマンツーマンで好きな絵本を読んでくれます。おやつは、イベントごとに変わるスペシャルメニュー。2020年最初のイベント「ゆきはまほうだ!」では、雪の結晶の形のクッキーを載せたマシュマロ入りブラウニーが登場しました。子どもたちは、目にも舌にも記憶に残る時間を過ごしたに違いありません。
カフェの定番人気は、スイーツ2種を盛り付ける「スイーツプレート」(400円)。スイーツは自家製で、タルトとグラスデザートは季節ごとに変わります。グラスデザートは「パンナコッタとオレンジゼリー」「ジンジャーエールとフルーツゼリー」「キビ糖のプリン」「クリームチーズのムース」など、子どもも大人も楽しめる味。そのほか、ガトーショコラやベイクドチーズケーキ、バナナケーキ、シフォンケーキからも選べるので、みんなで頼んでシェアする人が多いそう。公演のない日でも、稽古終わりの演者とお客さんが演劇を語り合ったり、親子が散歩がてらケーキを食べに来たり、建築学部の学生たちが集まったり。観劇を目的としない人たちも、自分だけの穴場スポットとして、のんびりくつろいでいます。
アンリ・ファーブル
[所在地]東京都杉並区高円寺北2-1-2 座・高円寺2階
[アクセス]JR「高円寺」駅北口
[TEL]03-3223-7330
[営業時間/定休日]
11:30~19:00/火曜休み
(火曜は出張店舗「ツバメおこわの日@アンリ」)
[公式Twitter]
https://twitter.com/cafe_fabre
nendoが出会った
「CONNEL COFFEE」
東京が誇る建築のひとつに、いけばな草月流の拠点「草月会館」があります。青山一丁目駅から青山通り沿いを赤坂方面へ歩いて7分。その全面ガラス張りのビルの2階にあるカフェ「CONNEL COFFEE(コーネルコーヒー)」では、計算された建築とデザインの妙をスイーツと一緒に味わうことができます。
草月会館が竣工したのは1977年。のちに都庁を手掛けた建築家の丹下健三が、草月流の創始者・勅使河原蒼風(てしがはら・そうふう)の依頼で設計しました。エントランスはグラフィックデザイナーの亀倉雄策がコーディネートし、彫刻家のイサム・ノグチが石庭を組むというぜいたくさ。その一角にあったクラシックなレストラン「薔薇」がカフェに改装されたのは2015年。ビルの6階にオフィスを構え、今や国内外で引っ張りだこのデザインオフィスnendo(ネンド)が、カフェと談話室をプロデュースしました。
店内に入ると、ガラス窓の向こうは一面の緑。さらに、外装のガラスや天井のミラーガラスの効用で、隣の高橋是清翁記念公園と赤坂御用地の緑が室内のあちこちに映ります。時々、視界の端に動くものが。青山通りを走る車や行きかう人たちが、天井にも一部映りこんでいるのです。この洗練された仕掛けは、竣工当時から変わらないとのこと。ガラスと鏡というシンプルな素材を生かした工夫があるから、いつまでも新しく感じるのかもしれません。
nendoが手を加えたのは、床と家具です。中央に置いたカウンターテーブルは黒い人造大理石を使い、さらに緑のリフレクションを生み出しました。テーブルの天板には「床緑」のように緑が映り、葉の揺れる様子も分かるほど。室内に外の景色が溶け込み、テラス席にいるような感覚に陥ります。カフェ責任者でシェフの八木英治さんによると、Wi-Fiや電源を完備しているものの、パソコンを持ってきても緑を眺めてひと息つく人が多いそうです。
メニューは、毎日コーヒーを買いに訪れるnendo代表の佐藤オオキさんも一緒に考えます。空間に合わせて「上質さ」を意識したスイーツは、すべてカフェ内での自家製。人気のエスプレッソのシフォンケーキ(520円)は、ローマの老舗ロースターで焙煎した豆を使う凝りよう。フランス産カカオをマーブル状に練り込み、優しい甘さがコーヒーに合います。そのほか、とちおとめと生クリーム、イチゴのソースを組み合わせたショートケーキや、ゴルゴンゾーラチーズのケーキなど、日によってケーキメニューが変わるのも通う楽しみのひとつ。ちょっとした驚きは、手元にも。真っ白のコーヒーカップは一見どこにでもあるマグカップですが、よく見ると持ち手部分だけ手びねりで作られ、一つ一つ形が異なるnendoオリジナル。シンプルでミニマルな中に「気づき」があり、この空間にぴったりです。
(コーネルコーヒー)
[所在地]東京都港区赤坂7-2-21 草月会館2階
[アクセス]東京メトロ・都営地下鉄「青山一丁目」駅
[TEL]03-6434-0192
[営業時間/定休日]
9:00~18:00(土曜は11:00~17:00)
日曜・祝日休み
[公式サイト]http://connelcoffee.jp/