東京三大どら焼きを食べ比べ芝田山親方が
東京三大どら焼きを食べ比べ
親しみやすさと素朴な味わいが広く愛されるどら焼きは、贈られた相手を和ませる“手みやげ”の定番。コミュニケーションを活性化させてくれる優秀な“相棒”は、特に東京下町の老舗にヒット商品が多いといわれています。今回は「東京三大どら焼き」と並び称される、うさぎや(上野)、亀十(浅草)、黒松本舗草月(東十条)の3商品を徹底解剖! 大のスイーツ好きで知られる芝田山親方に食べ比べていただき、それぞれの魅力を引き出してもらいました。
[文:岡山朋代/写真:斉藤順子]
亀十
亀十のどら焼きは「黒あん」と「白あん」の2種。まず黒あんに腕を伸ばした芝田山親方は「すごい重量感だけど、皮を触ってみるとスポンジケーキみたいにやわらかいんだよね」とそのギャップに笑顔を見せます。ふたつに割ってひと口頬張ると、何か思い至ったように皮を剥がしました。「断面に通る気泡をね、虚空に透かして見ると皮の食感がわかるんだよ」
親方の左隣に席を移して断面を眺めたところ……生地がみっちり詰まっており、大きな気泡はほとんど見当たりません。柱状に気泡が走る皮と比べて「亀十の皮は密度が高く、もっちりしているんだ」と教えてくださいました。加えて「これだけ繊細でふわっとさせるのはさぞかし難しいだろう」と職人の手仕事に思いを馳せます。
続いては黒あん・白あんを食べ比べ。「両方とも、生地とのマッチングがよく考えられた甘み」と語る一方で、「あっさりした白あんもいいけど……黒い小豆あんも捨てがたいなぁ!」と迷い、どちらにも軍配を上げませんでした。
うさぎや
親方が次に手にしたのは「うさぎや」の看板商品。「優しい焼き色だね」と話しながら、どら焼きを割って中を見せてくれました。あんこに面している側の皮はクリーム色。浅い片面焼きであることに触れつつ、おもむろに取り出した爪楊枝で断面を指し、「ほら、この柱状に走っている気泡が皮の食感をよくするんです。繊維みたいにスッと通る舌触りが、うさぎやの持ち味」と分析します。
詳しくわかりやすい解説に、どら焼き屋の製造担当者が集う勉強会へ参加しているのでは──と錯覚する編集部メンバー。芝田山先生のレクチャーは小豆あんにも及び、「ずいぶんとやわらかい粒あんだね。煮る時間にこだわっているんだろうな」──。口の中に残る小豆の皮を疎ましく感じる親方は“こしあん派”。今回の三大どら焼き店はすべて“粒あん”とあって分が悪いかと思いきや、ここまでの2店は「粒感を残しながらも皮が舌に残るようなイヤな感触はない」と言葉を尽くします。特に、ゆるく炊き上げたうさぎやの粒あんをお気に召したご様子。
黒松本舗草月
ラストは、黒松本舗草月のどら焼き「黒松」。特徴的なトラ柄に注目していた芝田山親方は、皮の側面に生じる光沢を見つけました。「リンゴの蜜みたいな光がおいしさを感じさせるよね」「皮の生地に使われているという黒糖とハチミツが出てきたのかな?」と興味津々です。
芝田山親方総評
食べ比べを済ませた芝田山親方に、東京三大どら焼きの総評をいただきました。うさぎや・亀十・黒松本舗草月のいずれも「どんな相手に差し入れても必ず喜ばれる品々だと思うよ」と太鼓判を押します。
「うさぎやのやわらかく上品な粒あんを、亀十のフワフワな皮に挟めたらいいのにね。生地にこだわってアレンジを楽しみたい時は黒糖とハチミツの風味豊かな草月の皮に」と願望を口にしたあと、「でも、そうしないのが店の個性だよね」と各店を尊重し、取材を結びました。
しばたやまおやかた/1962年生まれ。北海道芽室町出身。78年3月に初土俵を踏み、87年11月に横綱へ昇進。560勝319敗107休の生涯戦歴のうち、2度の優勝を経て91年7月に引退した。現役生活に幕を下ろしたあとは後進の指導にあたり、1999年に芝田山部屋を創設して現在にいたる。大の甘党・美食家として知られ、2006・09年には『第62代横綱・大乃国の全国スイーツ巡業』シリーズ(ともに日本経済新聞出版社)を上梓。農業と酪農を営む家に生まれ育ったバックグラウンドを活かして行うレポートが好評を博し、各種メディアでは「スイーツ親方」の名で親しまれている。
奇をてらわないおいしさ
[所在地]東京都台東区上野1-10-10
[アクセス]
東京メトロ銀座線「上野広小路」駅、
都営地下鉄大江戸線「上野御徒町」駅、
東京メトロ千代田線「湯島」駅から徒歩4分
[TEL]03-3831-6195
[営業時間/定休日]9:00~18:00/水曜日定休
[公式サイト]
http://www.ueno-usagiya.jp/
ずっしり大ぶり、鉄板の浅草土産
ひとつがずっしりと重く、直径15cmにも迫る大ぶりのどら焼き──。さぞかし満腹感が得られるのだろうと思いながら頬張ると、シフォンケーキのようなふわふわ食感の皮とのギャップに驚くでしょう。勤続約20年の井上修一さんいわく、その秘密は「一枚ずつ手焼きする前に、職人が生地のタネに空気を含ませているからでしょうね」。皮の表面に生じたまだら模様の焼き目が、機械には再現できない亀十“らしさ”を演出します。北海道十勝産小豆の風味が感じられる上品な甘みの「黒あん」、同じく北海道産インゲン豆を使用したなめらかな「白あん」の2種を食べ比べる楽しさも、亀十ならでは。大正末期の創業時には商品ラインナップになかったものの、「何か新しい甘味を」と創業者の考案したどら焼きは昔から大ヒット。現在でも鉄板の浅草土産として支持され、夕方には売り切れてしまうどら焼きの恩恵を与かろうとする来店客で、雷門にほど近い店頭はごった返すのでした。
[所在地]東京都台東区雷門2-18-11
[アクセス]
東京メトロ銀座線「浅草」駅から徒歩1分、
都営地下鉄浅草線「浅草」駅から徒歩3分
[TEL]03-3841-2210
[営業時間/定休日]
10:00~19:00/不定休(月に1回ほど)
[公式サイト]
https://asakusa-noren.jp/archives/63
まだら模様、黒松の幹に見立てて
トラやキリン柄を彷彿とさせる、淡いまだら模様の皮が特徴的な人気メニューの名は「黒松」。スタッフの岡田麻衣さんは、その由来を「黒松の幹に模様が似ていることから名付けました」と答えてくださいました。唯一無二の皮に挟まれている粒あんには、北海道十勝産の小豆を使用。気温や湿度の変化を確認しながら、日々緻密な調整を加えて炊き上げています。あっさりとした甘みが万人に愛されるのか、岡田さんは「スイーツが苦手なお客様や親戚にも喜んでもらえるのが嬉しいですね」と笑顔を見せます。創業から一店舗主義を貫き、よい素材を使って、保存料不使用の安全でおいしい菓子をつくるというのが黒松本舗草月のこだわり。1958年に誕生したこの商品が時代を超えて支持される理由を尋ねたところ、「ほどよい甘さ・手ごろなサイズ感・お求めやすい価格でしょうか」とのこと。この3拍子に惹かれた来店客が、今日も店頭に列をなします。
[所在地]東京都北区東十条2-15-16
[アクセス]JR京浜東北線「東十条」駅南口から徒歩1分
[TEL]03-3914-7530
[営業時間/定休日]
9:00~19:00/火曜日定休(繁忙期には変動あり)
[公式サイト]
http://www.sogetsu.co.jp/index.htm
「Tokyo Tokyo」焼き印どら焼きで“東京”の魅力発信
「東京おみやげ」製作プロジェクトの第1弾として東京都から認定されたのが、歌舞伎座の路地裏にある木挽町よしやのどら焼きです。一枚の生地にあんを包んで半月状に仕上げた逸品は、化粧中の舞台役者も頬張れる上品なサイズ。オリジナルの焼き印がつくれるサービスもあいまって、企業ロゴを施したいとビジネス利用を考える企業からも熱い視線を集めています。「東京おみやげ」として都と共同開発したどら焼きには、プロジェクトの旗印となる“Tokyo Tokyo”の焼き印が。一緒に誕生した懐紙を携え、東京の味を楽しんでみませんか?
[所在地]東京都中央区銀座3-12-9
[アクセス]東京メトロ日比谷線、都営地下鉄浅草線「東銀座」駅から徒歩1分
[TEL]03-3541-9405
[営業時間/定休日]10:00~18:00/日曜日・祝祭日定休(土曜日不定休)
[公式サイト]http://kobikichoyoshiya.com/