The Sweetest City, Tokyo

Tokyo甘味物語
Column
Tokyo発! 日本式ショートケーキ進化論コロンバンと不二家
Vol.7
Tokyo発! 日本式ショートケーキ進化論
コロンバンと不二家
Tokyo発!
日本式ショートケーキ進化論
コロンバンと不二家
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「ショートケーキ」と聞いて思い浮かべるのは、スポンジケーキとクリームが織りなす層の上にイチゴがのったケーキ。これは世界共通の認識かと思いきや、実は日本独自の姿なんだそうです。洋菓子であるはずのショートケーキはいかにして日本で生まれ、広まっていったのでしょうか。ショートケーキを“国民的ケーキ”にまで押し上げた立役者の2店に、その歴史とそれぞれのショートケーキの現在形についてうかがいました。
[文:岩本恵美]

日本式ショートケーキのヒントは
カステラにあり

日本式ショートケーキの誕生には諸説あり、その生みの親は日本初の本格的なフランス菓子店コロンバンの創業者である門倉国輝という説と、ペコちゃんでおなじみの不二家の創業者・藤井林右衛門(ふじい・りんえもん)だという説が有力だといわれています。

コロンバンは、菓子製造視察研究のために渡仏した門倉国輝が1924(大正13)年に東京・大森で創業。1931(昭和6)年には銀座に本店を開店し、サロンを併設した近代的な店は当時話題となりました。

門倉国輝/開店当時の銀座コロンバン本店/同店2階のサロン
(写真左)コロンバン創業者の門倉国輝。渡仏した29歳ごろ/(写真中)開店当時の銀座コロンバン本店/(写真右)同店2階のサロン[写真提供:いずれもコロンバン]

明確な記録は残っていないものの、ショートケーキは創業時からコロンバンの店頭にすでに並んでいたといわれています。「門倉が『日本人の口に合うケーキを作りたい』との思いでたどり着いたのがショートケーキだと伝わっています」とコロンバン広報室長の太田眞裕さん。

当時のフランス菓子は「ビスキュイ・ジョコンド」と呼ばれるしっかりめの生地と、こってりとしたクリームを使ったケーキが多く、日本人の口にはなかなか合わなかった様子。そこで、門倉はすでに日本人になじみのあるカステラのようなやわらかい生地に、従来のバタークリームやカスタードクリームなどと比べてしつこくない生クリームを合わせてケーキを作ろうとしました。

かたや不二家は、藤井林右衛門が1910年(明治43年)に横浜・元町で創業。横浜というハイカラな場所もあってか、創業時からクリスマスケーキを販売していたというから驚きです。

不二家の創業者、藤井林右衛門/不二家創業当時の1910年頃の横浜・元町の街並み。
(写真左)不二家の創業者、藤井林右衛門/(写真右)不二家創業当時の1910年頃の横浜・元町の街並み。右上に「FUJI-YA」の文字が記された看板が見える ©️新関コレクション [写真提供:いずれも不二家]

創業まもなくして、1912(大正元)年に林右衛門は洋菓子市場の視察のために渡米。その際にアメリカのショートケーキを目にしたことがショートケーキづくりのきっかけだったといいます。それから10年後、1922(大正11)年にショートケーキを発売したとの記録が残っています。そして、その翌年には、銀座に店を構えて東京進出を果たしました。

「アメリカの伝統的なショートケーキの生地はビスケットを使用していてザクザクとした食感。林右衛門は和菓子のようにしっとりとしてやわらかい食感の方が日本人の好みだろうと考え、カステラのようなふんわりとしたスポンジ生地にしたといわれています」と不二家広報室の宮永奈津紀さん。

ほぼ時を同じくしてショートケーキづくりに取り組んだ西洋菓子のパイオニアたち。「洋菓子を日本で広めたい」という思いから行き着いた先は、偶然にも同じ発想から生まれたショートケーキだったのです。

一方で、ショートケーキの象徴的存在でもあるイチゴの扱いは両店それぞれ。

不二家では、発売当初のイチゴの有無は定かではないものの、クリームをフルーツの果汁やチョコで味つけをしたり、フルーツやシロップづけの果実を使ったりと多様なアレンジがされていたという記録が残っています。「当時からフルーツとスポンジケーキ、クリームを使っているものを『ショートケーキ』と呼んでいたようです」と不二家の宮永さん。

コロンバンでは、夏場にイチゴが獲れない時代はマスカットや缶詰の黄桃などで代用していたそうですが、当初からショートケーキにはイチゴを載せていたといいます。コロンバンの太田さん曰く、「当時のイチゴは今よりも酸味が強め。それが甘いスポンジ生地と生クリームにマッチしたから、イチゴがショートケーキに使われるようになったそうです。また、白地に赤という、日本国旗の日の丸に象徴される色づかいでなじみやすかったのではないかという説もありますね」とのこと。紅白の色の取り合わせは、誕生日やクリスマスなどハレの日にもぴったりだったのかもしれません。

こうして日本独自の形となったショートケーキですが、すぐに“国民的ケーキ”になれたというわけではありません。

当時はお店に冷蔵ショーケースがあることも珍しかった時代だけに、お店に並ぶケーキも品質保存に適したバタークリームのケーキが主流でした。

けれども、昭和30年代に入り、冷蔵技術の進歩と高度経済成長とともに冷蔵庫が一般家庭に普及するようになると、状況は一変。生クリームケーキの保存が容易になり、そのおいしさも手伝ってショートケーキは“国民的ケーキ”の座を勝ち取ったのです。

昭和34年ごろの不二家銀座6丁目店
昭和34年ごろの不二家銀座6丁目店。「ショートケーキ」と記された札の奥にはイチゴ以外のフルーツでデコレーションされたケーキが並んでいます[写真提供:不二家]
昭和50年代ごろのコロンバン東京駅売店
昭和50年代ごろのコロンバン東京駅売店。もはやショーケースにショートケーキは欠かせない存在でした[写真提供:コロンバン]
卵たっぷりのスポンジ生地と生クリームのマリアージュ
コロンバンのショートケーキ
ショートケーキ
ショートケーキ[550円(税抜き)][写真:Tabasa]

コロンバンのショートケーキは、一般的なショートケーキよりもスポンジ部分が黄色いのが特徴の一つです。これは卵を多く使うカステラに倣ってのこと。全卵と卵黄を同じ割合で入れているのだそうです。

そして欠かせないのが乳脂肪分の高い生クリーム。乳味豊かな味わいですが、くどくはありません。実はコロンバンのショートケーキの完成には、機械化の追い風もありました。創業当時、ちょうどアメリカから遠心分離式の生クリーム製造機が輸入され、貴重だった生クリームが業務用に調達できるようになったのです。

「ティラミスブームの時は例外ですが、ショートケーキはいつの時代も不動の人気ナンバーワン。時代とともに甘さは控えめになってきていますが、スポンジケーキと生クリームのベースとなる部分は創業時から変わっていません」とコロンバンの太田さん。

一部店舗のイートインでは、ショートケーキの進化系「焼きショートケーキ」も味わえます。ショートケーキの生地を熱々のフライパンで焼き、生クリームとアイスクリームをたっぷり載せて仕上げたフレンチトーストのようなショートケーキ。あたたかいショートケーキというのも乙なものです。

コロンバン 京王新宿サロン

[所在地]東京都新宿区西新宿1-1-4
京王百貨店新宿店8F
[アクセス]「新宿」駅 徒歩1分
[TEL]03-5321-5239
[営業時間/定休日]11:00〜22:00(L.O.21:30)
京王百貨店新宿店の休みに準じる
[公式サイト]https://www.colombin.co.jp/

コロンバン 京王新宿サロン
バリエーションが楽しい
不二家のショートケーキ
ショートケーキ
(右奥から時計回りに)三角ショートケーキ[371円]/プレミアムショートケーキ(国産苺)[482円]/苺のショートケーキ[408円] ※いずれも税抜き [写真:長島史枝]

現在、不二家で味わえるスタンダードなショートケーキはなんと3種類。一番のロングセラーは「三角ショートケーキ」で、その名のとおり三角形であることが特徴の一つ。ショートケーキというとホールケーキを切り分けた形が一般的ですが、三角ショートケーキは四角いスポンジケーキを三角形になるように切り分けられているのです。店内製造品のため、一部店舗でのみの取り扱いとなりますが、その場で作っている分、より新鮮な状態のケーキが味わえるのだとか。

すっきりした味わいのクリームが好みという人には甘さを感じつつも後味がいい「苺のショートケーキ」、ワンランク上のおいしさを求める人には国産イチゴなど厳選された素材を使い、クリームとイチゴを2段もサンドした贅沢な「プレミアムショートケーキ(国産苺)」がおすすめだそう。

「時代によっておいしいと感じる風味は変化しています。それに合わせて、スポンジ生地とクリーム、イチゴの3つを一緒に食べたときにベストなバランスになるよう改良・開発している点は今も昔も変わらないのでは」と不二家広報室の土田愛さんは思いを巡らせます。

定番の他にも、クリスマスやバレンタイン、ひなまつりなどのイベントに合わせた特別なショートケーキや、旬のフルーツを使ったショートケーキもシーズンごとに不二家のショーケースを彩ります。ショートケーキを通して季節を感じるというのも一興です。

不二家 数寄屋橋店

[所在地]東京都中央区銀座4-2-12
銀座クリスタルビル1F
[アクセス]「銀座」駅B10出口 徒歩1分
[TEL]03-3561-0083
[営業時間/定休日]10:30~22:00
(日曜・祝祭日は21:00まで)/4月・11月の第3月曜日
[公式サイト]https://www.fujiya-peko.co.jp/

不二家 数寄屋橋店
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※東京の魅力発信プロジェクトとは、東京ブランドアイコン「Tokyo Tokyo Old meets New」を効果的に活用しながら、東京都および東京観光財団が民間事業者と連携し、東京の魅力などを発信する事業です。

【「Tokyo甘味物語」プロジェクト主催】
朝日新聞社 総合プロデュース室(好書好日編集部)
/メディアビジネス局
※本プロジェクトは「東京の魅力発信プロジェクト」に採択されています。
【問合せ先】
book-support@asahi.com